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キサ

Author:キサ
ファンタジーとバトルとラヴをこよなく愛し、熱しやすく冷めやすい社会人。

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【第1章】神父と騎士 -a father and a knight- 1

2016.05.12 21:22|クロスマテリア
 東の大陸――ファーネリア国に王はいない。
 人々を支える頂点にあるのは、玉座ではなく、法。
 法の神イルダーナフを崇めるイルダナ教徒が、全ての立法権。即ち国内における最高権を握っていた。
 その総本山ともなる大聖堂教会の敷地は、さすがに広大である。

 はじめて見た者は、森に包まれた小さな町、と思うかもしれない。それはあながち間違いではなかった。
 鬱蒼――とまではいかないが、覆い茂った草木たちは陽の光を吸って森の息吹を感じさせる。 その緑林の海の中に、ちらほらと白とレンガの赤が覗いていた。建物はとんがったものから丸いもの、四角いもの、 大きいものから小さいものまで、あわせれば30は軽く越えるだろう。
 その隙間からは、穏やかに談笑する人たちの姿が見受けられた。
 時刻は早朝。―――蒼い空を、1羽の鳥が軽快に飛んでいた。
 鳥は2、3度空中を踊ったかと思うと、その白い体を雲に隠すように風に乗せ、ほんの少し低空飛行し。
 ひとつ、わりと大きめな建物の横をすり抜ける。
 鳥を映し出した窓の向こうに、何人もの人影が映っていた。



+++++++



「《レガイア》を―――盗まれた、だと?」

 波紋のように広がる円卓に腰掛ける老人が、掠れた声で呻いた。
 たっぷりと携えた灰色の髭の奥で、未だに唇が震えているのがわかる。
 それに答えたのは、同じく座っている一人。
「何も盗まれたなどとは言っておらん。聖廟から突然姿を消したと言っただけじゃろう」
「同じことだ!ソレを盗まれたと言わずなんと言う?剣が勝手に動いて便所に行ったわけでもあるまいに。ええ!?」
「落ち着けバルトス。剣は厠になど行かん」
「マジメにツッ込むんじゃねぇよ!これが落ち着いていられるかい!!」
 興奮気味に机を叩くバルトスに、相手の老人はため息を零した。
「詳細をお話いただけますか?ウィクトール」
 ふいに、穏やかで、それでいてどこか張り詰めた声で老婆が口を開く。
 だがウィクトールの返答は、当惑したように首を横に振るものだった。
「すまんなシンヴィ。詳細、と言われても困る……なにせ、昨日まで確かに聖廟の神台に祀られてあった剣が、今日の朝には忽然と 姿を消していたのじゃからの」
「衛兵は?」
「無論、誰も近づいてなどおらんと」
「フン!大した警備兵だな」
「バルトス」
 軽く口調を荒げると、バルトスは憮然と腕を組んだまま沈黙した。
「ファーネリア法典第9条22節。許可なく教会内の祀品に触れること、すなわち第1級犯罪と成す―――少なくとも、この教会を 含む聖都の民の仕業ではないな」
「……ザイードよォ。てめぇその……会話の端々に法典の内容を入れてくる癖、どうにかならんのか?」
「………………」
 バルトスの呆れ顔に、ザイードと呼ばれた老人は大人しく目を伏せる。
 しかしその眉目からは、微かに納得できないとでも言いたげな雰囲気がプンプン漂っていた。
 気を取り直して、ウィクトールは続ける。
「おそらく『外』からの干渉であろう。だが誰が、どういう手段でやったにせよ、我々が重んずるべきはそんなことではない。 ――探し出すのだ。なんとしても」
 全員が、――バルトスまでもが、真剣に頷く。
「あれはただの剣ではありません。万が一魔族の手にでも渡れば、とんでもないことになる」
「同感だな。ファーネリア法典第2条7節にも記され…」
「おぅ!まどろっこしいのはなしだ。誰がどう盗ったなんざ、探してるうちにヒョンと明らかになるってもんよ!!」
「………………」
 絶妙なタイミングで割り込んだバルトスの豪快な意気込みに、ザイードは小さく隣を睨んだあと、
「……で、どうするつもりだ?」
 眼前のウィクトールへと視線を移す。
 だが答えたのは、彼ではなくて。
「彼に、行かせようと思っております」
 老人の背から聞こえた声に、一同は意識を注ぐ。彼ら4人の円卓の後ろの席に座る壮年の男が、柔らかい物腰で こちらを眺めていた。『神の意』とも称される最高審議会の席で、微笑んですらいる。
 だが、そのさらに横。
 男の示した相手を見て、ウィクトール以外の3人が――ひいては会議に参列した全員が凍りついた。
「本気――なのですか?クライル大神官」
 シンヴィの掠れた声が、静寂の室内に響く。
 クライルは再び、にっこりと笑む。
「彼自身の許可はとりました。あとは、審議会での結論を待つのみです」
「だが……彼は…。我々 賢老院 けんろういん でも手に負えない」
「彼だから、出来るとは思いませんか?」
 まるで本人がいることを忘れているかのように、淡々と抗議が続く。
 ウィクトールが両手を挙げ、静かに沈黙を促した。
「無論、危険は重々承知。じゃが、他に誰ができる?」
 質問に答えるものは、いなかった。
 ウィクトールは手を下ろし、代わりにそれで腹部まで伸びた髭を梳く。
「皆も分かっておろう。事は一刻を争うのじゃ。可能性に怯え閉じこもったままでは、何も起こらん。故に何も変わらん」
「…よーし、分かった。だったら、ワシの管轄下にある、聖堂騎士団から一人、付き人を添えよう。そーいうことなら、 おあつらえ向きのが一人いる。まかせろ」
 珍しく妙案を出したバルトスに、会議室の空気が少し和らいだ。
 髭を梳きながら、ウィクトールは背後の相手に告げた。
「……では、最高審議会から決断を下そう。ラーグ=クラウド神父、魔剣《レガイア》を探し出してほしい。 取り返しがつかなくなる前に、なんとしても」
 視線の先――――
 およそ普段はこんな場所へと足を踏み入れることなどない黒い法衣が……実にダルそうに答えた。
「……………鬱陶しい」



+++++++



 ミリアは、なかなか悪くない気分で窓の外を眺めていた。
 空は青く、風は心地良い。遠くの聖堂からかすかに聴こえる聖歌が、小鳥のさえずりと重なって、絶妙にステキな 音色を教会内に運んでいる。
 こう気分のいいときは、昨日魔物の討伐に行って筋肉痛がビシビシするだとか、そのせいで起きざまにバランスを崩して 本棚をドミノ状にぶっ倒してしまっただとか、そんでもって今もまだ片付けている真っ只中だとか、そおいう、ネガティブな 自分なんかは一切忘れてしまいそうになる。
 うんうん。なかなかイイ感じだ。
 そう思ってふと室内に顔を向けると―――。散布した無数の本の山と、仲良くうつむく本棚が目に入ってきたりして――
「…………………」
 つ…、と目を逸らし、ため息を零すと、その部分のホコリがむあっと舞い上がった。

「ふふ……なんでかな。なんで数少ない休暇のときに限って、こう……あたしって…」
 たぶん世の中の不条理さんすべてに対して言ったのだろう。ミリアはがっくり項垂れると、身を起こしてよれよれと 片付けを再開した。屈んだ拍子に、栗色の長い髪が前へ垂れる。
 まだわずかな幼さの残る表情の奥から覗くのは、輝く紫暗の瞳。身につけた黒い修道服が、彼女の細い腰のラインを うっすらと表していた。
 と、ミリアは埋没する本の中の1冊を手に取り、
「…ん?」
 ふと、眉をひそめる。
「『戯妖精(バルテル)にも分かる連結魔法』?――げ。これ中央図書館から借りてたやつじゃない」
 ミリアは再び、今度は全身でため息をついた。ため息を1回つくたびに幸せが1つ逃げていくと言うが、今ので人生の幸せの 何割かは確実に持っていかれたにちがいない。それもたぶん、永遠に。
 図書館の蔵書は、返却期間を過ぎると罰則として教会中の窓拭きをやらされるはめになる。過去1度だけやったことがあるが、 あれは生きとし生けるものなら出来る限り、己の全てを賭けてでも阻止しなければならない。最悪なんてものじゃない、地獄だった。 あそこの館長は何を考えてこんな処刑法を編み出したのか。鬼か。
「とにかく、また夜中に潜り込むっきゃないか…」
 意を決して再び作業に戻ったミリアの背を、聞き馴染んだ声が引きとめる。
「おーいミリア……って、うっへぇ!なんだこりゃ!?」
「アレン」
 散乱する部屋を見て、アレンと呼ばれた少年はドアの横で思わず停止した。
 ミリアと同じく17ほどの年頃の若々しい面を飾るのは、ざんばらに切った黒髪。その下で呆れかえったように室内とミリアを交互に見ているのは、悪戯っこのような緑の双眼。 ほぼ皮膚と一体化しているかというくらいつけ続けている眼鏡を直すと、少年は深刻そうに顎に手をやり。
「………家庭内暴力デスカ?ミリアさん」
「誰がだ――――――っ!!!」
 直後、ぶオンとかっこいい音をたててミリアが手にしていた本を投げ付ける。アレンが「おあっち!」とギリギリでそれを かわしたのと、ミリアが右手に痛みを感じたのは、まったくの同時だった。
「った――!アレン、こっちは筋肉痛なんだからもちょっと労ってよっ」
「…俺の心配はなしっスかー?てかお前、今明らかに脳天狙ってただろ。容赦なく」
「つつつ……え、何?なんか言った?」
「……………いや。――ん?」
 遠い表情をして顔をそらしたアレンの目に、ミリアの投げた本が留まる。
「『戯妖精にも分かる連結魔法』?………はっはぁ~ん?」
 ぎくぅっっ
 アレンのもの可笑しげな声を聞くと、ミリアの体が強張った。
 いかん。まずい非常にまずい。このパターンは、たしか以前にも何度か経験している。
 冷や汗を流すミリアを面白がるように、アレンは腕を組んだ。
「あ~そっか~。ナルホドねぇ~ミリア、また返しそびれたんだ?可哀相にな~。下手すりゃまた2週間窓拭き 地獄を見るハメんなるよなぁ~」
「…なにが言いたいの」
 分かってはいたが、条件反射で訊いてしまった。
 アレンは1度ニッと笑うと、
「どーせまた夜中に忍び込む気だろ?口止め料として、セージェス街の温泉無料引き換え券。1枚で勘弁してやろう」
「―くっ……!」
 ミリアは、これ以上ないほど苦渋の面をかみ潰した。ポケットから空色の紙を2枚出すと、くやし涙を呑み込みながら アレンに手渡す。ジュースの懸賞でコツコツ貯めていたものだ。それをこいつは…!
 5枚しかないのを2枚もとるなんて………っ!!
「まいど~♪いやぁ、悪いね。ミリアさん。いつももらってる身で」
「あっはっは☆いやだなぁアレンさん。困ったときはお互い様ですよ」
 売り言葉に買い言葉。だが明らかにミリアの声色には、殺気という2文字が乗っかっていた。
 そのタイミングを見計らったかのように、すかさずアレンの声が滑り込む。
「っと、そうそう忘れてたぜ。ミリア、最高審議会からお前に通命だってよ」
「へっ?」
 突然のことに、ミリアの頭から怒りのオーラが一気に消える。
 同時に降りかかる、ふつふつとした不安。
「あたしに?なんで?」
 アレンは1度咳払いをした。
「賢老院からの言葉をそのまま伝えるぜ。『聖導騎士団(ラウストウィア)副長、ミリア=イリス。ラーグ=クラウド神父の旅に同行し、 その補佐をせよ』」

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