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キサ

Author:キサ
ファンタジーとバトルとラヴをこよなく愛し、熱しやすく冷めやすい社会人。

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【第1章】神父と騎士 -a father and a knight- 5

2016.05.12 21:51|クロスマテリア
 悲鳴が聞こえたのは、ほんの一瞬だった。
 次の瞬間から、それはもう聞き取れないほどの阿鼻叫喚に変わる。

 未だに穏やかな陽の差す道々を、恐怖に顔を飾った人々が濁流のように押し寄せ、我先にと逃げ惑う。下級の神父や、教会に入って 日の浅い修道女がほとんどのようだった。
 彼らの逃げてくる方角に呆然と目をやり、ミリアが驚いた眼のまま固まっている。
「………………魔族…?」
「武帝院の方だな」
 後ろから聞こえた、感情のない声に。
 現実状態に戻ったミリアは、驚愕に頬を強張らせる。
「な…っ―――神聖結界(ラグナシード)を越えてきたって言うんですか!?」
 教会は、周囲に張り巡らせた聖気の結界で常に魔族の侵入を阻止している。彼らが触れれば、一瞬で灰になれるほどの威力だ。 容易に破れるはずがない。それなのに―――――
 食い入るような眼差しに、ラーグはそれでも鬱陶しそうに眉を寄せ、
「俺に訊くな。………第一、方法はいくらでもある」
 そう言って、ちらりと目だけでミリアを見下ろすと、彼女の紫の瞳に当惑が浮かんだ。
「え?何を…」
「それより、行かなくていいのか?聖堂騎士団(ラウストウィア)副長」
 再び視線を逸らされて、ミリアは「あっ!」と叫んだ。
 魔族が現れた。人々が逃げ惑っている。
 ――――となれば、聖堂騎士団の出番だ。
「あ、貴方も逃げ―――じゃない。外のほうが危険ですよね……ここにいてください!」
 それだけ叫ぶと、栗色の髪は返事も待たずにラーグの視界から消える。
 魔気の中心へ移動してゆく聖気の気配を感じながら、彼は小さく、零すように呟いた。
「…………足りんな」

+++

 今さらではあるが、なんで教会はこう広いのだろう――?
 胸のうちで、ミリアは舌を打った。
 我が身惜しさに押し寄せてくる人々の波を逆らって進むのは、容易なことではない。
 普段ならこれくらいの人並み、軽くすり抜けられようものを……今の彼らは、1cmの隙間も逃さず滑り込もうとする。 火事場のなんとやらはよく言ったものだ。
「…まぁ、武帝院の方なら皆がなんとか応戦してくれてるだろうけど………」
「ミリア!」
 独りごちたところに、文字通り上から降ってきたのは、聞き慣れた少年の声。
「―――アレン!?」
「上だ!跳べっ」
 彼は建物の端々に突き出た中屋根の上で、親指で「こっちに来い」と呼びかける。
 なるほどっ!
 ぱっと顔を明るくすると、軽く地面を蹴る。たったそれだけの行為で、彼女のしなやかな体は宙へと浮いていた。
 目的の場所へ降り、アレンと視線を交わすと、また全力で走り出す。
「どーなってんの!?教会に魔族が出るなんて!!」
 息を切らせながら、ミリアが問いかける。
「俺だって知らねーよ。けど少なくとも、外から来たわけじゃねぇ!内側から、突然ぽっこり現れやがった!」
「だからなんで!」
「だから知らん!」
 無意味な攻防を繰り返し、なおも2人は走り続ける。
 常人を逸した身のこなしで。あるときは屋根の上を、またあるときは木々の枝を地面代わりに。

 ふいに、ミリアが思い出したように言う。
「…そーいえばさっき、クラウド様の家で魔精が出たの」
 アレンが驚き振り返る。
「そいつは、クラウド様がやっつけてくれたけど……あいつらだって魔物だよね。なんで入ってこれたのかな…?」
「……………………」
 無言で考えるアレンの表情に、暗いものが落ちた。
 どうやら、思い当たるフシがあったらしい。
「ミリア、そりゃぁもしかして―――」
「―――あ…」
 吐息と同じくらいに掠れた声が喉から漏れ、ミリアの動きが止まる。
 同時に止まったアレンも、彼女と同じ方へ視線を泳がせた。
 目的の場所には少し離れていたが―――そこから、目的のモノは十分見れた。

 鍛錬所の芝生に蠢く、黒い影。
 爆煙に遮られてよく見えないが、その異形とも呼べる姿は、妖精でも幻獣でも、ましてや人でもない。魔物―― それも、結構大きい部類に入るものだった。身の丈は2~3メートル。赤黒い肉は皮膚という組織を持たず、 むき出しの心臓のように不気味なリズムを刻んでいる。目も鼻も耳もなく、円状に並んだ牙が不規則に開いたり 閉じたりしていた。
 その中で、何人かの男たちが戦っているのが見えては、また煙の中へと消える。
 だがミリアを金縛りにしたのは、そのどちらとも違うモノだった。
 緑の芝生―――自分がつい先ほど回復させたその上には、真っ赤な絨毯が敷かれていた。
 そのさらに上へ折り重なる、膨大な数の人間の骸。
「…………なんっだこりゃぁ……」
 さすがに吐き気を覚えたアレンは、思わず口を押さえる。
 大地に横たわる、ほんの少し前まで息をしていた者の中には、すでに人の形を残してないモノもあった。
 ミリアの中で、恐ろしい感情が爆発した。
 屋根を蹴って迫るその背から、アレンが何か叫んでいたが、さっぱり聞こえない。
 両手に意識を寄せ、淡い光と共に現れた一振りの巨剣を手にすると、躊躇なく振りかぶる。
 魔物が気づいた―――が、遅い。
「『風よ(シルフィール)』!」
 切っ先に鋭利な気圧が巻きついたかと思うと、次の瞬間、それは魔物の頭部から腹部にかけてを深く抉っていた。
 泥水のような断末魔を上げて、黒き体が灰となる。
 聖魔導とはまた違う、自然の力を借りた晶魔導。
 他の魔物たちが警戒に動きを鈍らせると、騎士たちの声が向けられた。
「………副長…っ!」
 その声の奥に様々な感情を感じ取って、ミリアは側の死体の山を一瞥する。
 こんな場所で戦う者だ。人の死は焼きつくほどに見慣れている。………しかし、自分がもう少し来るのが早ければ。 いやそもそも、あのときやっぱりラーグの所へ行かずに寮へ帰っていれば、あるいは――――……
 ………いいや。今はそんなこと考えてるときじゃない。
 隊長がいない今、自分がここの指揮官なのだ。
「どういうこと?いきなり魔物が教会に現れるなんて」
 本日三度目の質問。
 が、騎士のひとりは痛々しそうに目を伏せた。
「そ、それが―――」
 直後。
 耳で話を聞きながら目で魔物を捉えていたミリアは、異形の後ろから現れたものに目を疑った。
「…魔精―――」
 微かに流れた息と同時に、彼女はあることに気づく。気づいてしまう。
 交戦している騎士団と、軒連なる死体の山――。…数が、合わない。
「まさか――――…」
 少女は、愕然とした。


「やっぱり、喰ってやがったんだな。……聖堂騎士団を」
 離れた屋根の上で傍観しながら、アレンが苦々しく言った。
 魔精は生き物の負の感情に寄生し、魔物化させる。
 騎士たちの一部が、その餌食とされたのだ。ほぼ間違いない。
「やべぇな。元聖堂騎士とあっちゃ、力も相当なはずだ」
 そう呟くと、アレンは戦場の中に佇む栗色の髪をじっと見つめた。

+++

 ショックを隠し切れないまま、ミリアは立ちすくむ。
 実は、こうして立っているだけでもフラつきそうになる。
「元には………」
 なんとかそれだけ搾り出し、彼女は兵のひとりに訊ねる。
 だが彼は、残酷な素振りで首を振った。
「『誓約』を……立てました。もう、人間には戻せません」
 『誓約』。
 それは神に対してだけの言葉ではない。魔物化した人間は、誰一人同族を殺さなければ、なんとか人に戻すことができる。 しかし一度殺してしまえば、魔との『誓約』は確立し、本物の魔族となってしまう。
 ミリアは唇を噛んだ。
 そして。
「…分かった。動ける者は怪我人を連れてすぐにここから離れて。避難場所に行ったら、うち半分は逃げた人たちの護衛。 それから通行整備を布いて、聖魔導使える人をできるだけ多く集めてきて。あたしは、ここでこいつらを足止めするから」
 一息でなんとも無茶苦茶を言う少女へ、男たちはさすがにうろたえる。
「そんな…!副長一人じゃ………」
「早くしなさい!人数だけいても恰好の餌だって言ってんの!!」
 声を荒げると、騎士たちはハッとして、すぐさま指示に従った。

 そうして、しばらく均衡が続いたあと、煙の向こうからまた4、5体現れる。
 ……正直、自分でも馬鹿を言ったものだ。
 たしかに魔物の数がこれ以上増えるのも問題だが、では自分がやられればどうなるか―――
 これでも副長の立場を自負している。ヘタすりゃ聖魔導でも手に負えない魔物の出来上がりか?……まぁそのときは、 食いつかれる前に自分で自分の命にケリをつける。そのくらいの覚悟は、出来ていた。
 スッと、抜き放たれた銀の刃に黒い姿が映る。
「……もうあんたは、あたしの同僚じゃない。滅びなさい、魔族よ」

 瞬間、先に動いたのは魔物だった。
 口らしき穴の前に光の粒が集まり、ヴァンッ!と低い音をたてて弾ける。
 ミリアはそれを苦もなくかわし、空中で器用に体をひねると、
「『雷よ(ヴォルツィード)』」
 ビリリッッと火花を散らした切っ先が、相手の肉体を縦に削いだ。まずは1体。
 続いて両隣から来た影を、今度は姿勢を低くして横に薙いだ。真空の刃に切り裂かれて、魔物たちは灰と化す。これで3体目。あと3体。
 が、そこで彼女はぞくりと嫌なものを感じ、咄嗟に横へ跳ぶ。
 ちょうどそこを、黒い小さな影が飛びつこうとしたところだった。――魔精だ。
「………く…っ」
 大きいほうでは勝ち目がないと踏んだのか、魔物たちは違う手段に出た。恐れていた事態だ。
 もっと距離を。そう思ったが、ミリアは実行に移せなかった。
 両手両足に強烈な熱と痛みを感じ。気がつくと、彼女の細い四肢は魔物に押さえつけられていた。ねっとりとした感触が、 最高に気色悪い。
 ほんの少し隙を見せただけなのに………やはり、騎士だったころの実力は健在だ。
 ミリアは自嘲し、襲い来る魔精を睨んだ。
 ああ、こいつらってのっぺらぼーみたいだけど、ちゃんと口があんのね。しかも牙まで。あれってやっぱ、噛まれると 痛いのかなー。
 そんなことを考えながら、剣の柄に力を込め、魔精を最大まで自分におびき寄せる。
 さぁ来なさい。私もろとも、一気に消してやるから。
 ミリアは息を吸った。

「……っやべ!ミリ………」
 叫んだアレンの声が、途中で消える。
 風に、かき消された。―――そう、一瞬で自分の横をすり抜けた、金色の風―――………

 そして。

 鍛錬所に、閃光が爆発した。


 魔族の五体が、吹き飛んでいる。
 中から溢れる緑色の液体が、もとは赤いはずだったと思うと、ミリアは無性にやるせない気持ちになった。
 が、逡巡そう考えたところで、ふと、我に返る。

 ………なぜ、自分は無事なのだろう?

 答えが出る前に、彼女の視界は、それを映した。

 輝かんばかりの金の髪。その下から覗く、端正な面立ちと、感情のない翠の双眼。
 いつのまにか彼女は、ラーグの大きな手に抱えられて魔物たちから離れたところにいた。
「轟魔(ガル)と……それに魔精か」
 やはり、と言った様子のラーグに、ミリアがうろたえる。
 それに気づいたラーグは、ぽいっとそのままの姿勢で彼女を落とした。
「あたっ!」
「現状はだいたい呑みこめた。――で、おまえは何をやっている?」
 謝罪もなしに訊ねられると、ミリアは腰をさすりながら、
「な…何をって―――皆を先に逃がして、そんで足止めを――ていうか、クラウド様はなんでここに!?」
「そして喰われそうになっていたのか?さっきの今で?」
「その前にケリぐらいつけるつもりだったんです!それから、私の質問、聞いてますか!?」
「不憫な脳味噌だな」
「きーてませんね……」
「自分もろともあいつらを吹き飛ばすつもりだったんだろうが、どの道無駄なことだ」
「?それってどーいう……」
 言い終わる前に、目の前で光が弾けた。
 魔物の放った攻撃を、ラーグが片手でいともたやすく防御したのだ。
「やはり足りんな」
「なにがですかっ!?」
 ひとりでズシズシ納得していくラーグに、ミリアが喚く。すると彼は、防御に使った壁を一陣の風に変え、周囲へ なぎ払った。
「数が、だ」
 晴らされた煙の向こう――――。
 そこには、およそ100は軽く越えた魔物たちがひしめき合っていた。
 ミリアが絶句する。と同時に、ぞっとした。
 あれだけの数の魔物を、1人で相手しようとしていたのか。自分は。
 と、突然背後からにゅぅっと黒い影が伸びる。
 赤黒い体に、生臭い臭い。全部で、3体。
「そん……っ。さっき倒したはず……」
 ミリアの困惑に、魔物は答えない。かわりに上から、ラーグの気のない声が投げられる。
「轟魔の分裂性能を考えてなかったのか。……本当におめでたい副長だな」
 言い返すことができず、ミリアがぐっと言葉を殺す。
 すると―――あるものに目が留まった。
 自分の纏った純白のマント―――そこを鮮やかに飾っていたのは、大量の血痕だった。
 ぎょっとしてラーグの方へ顔を向けると、彼の両腕はまたしても鮮血に濡れていた。それも今度は、肘から下。 ミリアを引き剥がし魔物を砕いたとき、受けた傷に違いない。
「―――クラウド様手が……!」
「同じことを何度も言わせるな。それとも、お前の頭に詰まっているのは単なるスポンジか?」
 この期に及んで、いまだに涼しい顔で皮肉を言ってくる。
 ともあれ、このまま口論してても始まらないことは確かだった。ミリアは、剣を構える。
「……どうしますか?倒しても倒してもいちいち分裂されちゃ、キリがないですよ」
「だから、同じことを何度も言わせるなと言った」
 今度は言われたことが理解できず、ミリアは怪訝顔を返した。
 ラーグは彼女には一瞥もくれず、魔物に視線をやったまま、口元を軽く笑みの形に歪める。
 ぞっとするような―――捕食者の目だった。
「…一瞬で、消してやる」

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