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キサ

Author:キサ
ファンタジーとバトルとラヴをこよなく愛し、熱しやすく冷めやすい社会人。

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【第2章】妖精の街 -fairy town- 7

2016.05.13 20:58|クロスマテリア
「ひとつ、伺いたいんですが」

 今この目の前にある状況に、驚きも怒りも慌てもせず。
 ミリアは落ち着いた(と、言うより棒読みっぽい)口調で、半開きの目をさらに薄めた。
「これって夢ですよね?」
「馬鹿でもわかるほど、現実だと思うが」
「うりゃあぁぁーーーーーーーーーーー!!!!」
 抑揚のない嫌味が返ってくるとほぼ同時、ミリアは力のあらん限りに自分の被っていたシーツを引っ張っていた。反動と、 目覚めていきなり激しい俊敏さを発揮したせいか、そのまま見事にベッドの下に転倒する。頭から落ちて一瞬お星様が 見えたが、次いで降ってきたラーグのうっそりとした声に、今度こそ現実味が増す。
「起きぬけ早々何をやっている……」
「なんでなんでなんっっっで!どーしてラーグがあたしの横で寝てるんですかっ!?」
「俺の金で取った部屋だ。何が悪い。眠ければ寝るというのは生物の本能だろう」
「そーゆー問題じゃなく!!」
「どういう問題だ」
 いかにもやかましそうに眉間を寄せるラーグ。先ほどの一瞬で部屋の隅まで驚異的速度で逃避していたミリアは、ひっぺがした シーツを握り締めたままあうあう唸った。
 目が覚めて、宿のベッドに寝かされていたまではいい。……その横に、ラーグの整った横顔のアップがあるということ以外は。 なんか数十年くらい時が止まった心地がしないでもなかったが………やかましくもなる。
「前にも言ったろう。有り得もしない状況を警戒しても時間と労力の無駄だ」
「ですからそーゆー問題じゃありませんっ」
 ミリアは、寝癖ではねた栗色の髪を悔しげにかきむしったあと、びしりとベッドを指差した。
「2度も……2度も寝込みを狙われました。しかもそれに全く気づかず侵入を許してしまうなんて………騎士の恥です! こんなことでは聖堂騎士団(ラウストウィア)の副長など務まりません!!」
「……………………」
 何か激しく呆れと憐れみを含んだラーグの視線にも気づかず、ミリアはひとり部屋の隅で喚いている。
 ふいに、シーツのはがされた寝床に腰掛けていた神父が立ち上がる。そのまま出口へと向かい―――
「……?どこか行くんですか?」
「用は済んだ」
「はぇ?」
 首を傾げるミリアの質問にも、やはり答えず。彼は無言のまま、客室から出て行ってしまった。 ちょうどメンゼルとすれ違い、ほんの一言何かを話したあと―――

「ミリアぁーーーーーーっっ」
「わっ!ティティ?」
 開いたままの扉から勢いよく胸に飛び込んできた妖精に、ミリアはぱちくりと目を瞬かせた。
 ティティは彼女の無事を確かめるように、心配そうに顔を覗きこんでくる。
「具合はどう?気分悪くない?もうヘーキ?アンタ《豊穣の種(フェアリーソウル)》を孵してから4日もずっと眠ったままだったのよっ!? ほんとにほんとにほんとに、アタシのこれまでの人生の3分の1ぶんくらい、心配したんだからねっっ」
「えっと……それって多いの…?」
「分かりやすいように人間の寿命に変換してみたの」
「………………それってつまり…ティティの歳って」
「コトバのアヤよ!!!そんな昔の失言は忘れるべきよ、さぁ!」
 言い切る前にきっぱりと遮られ、ティティはいつもどおり、元気よくくるりと宙を舞う。
 ―――正直、ほっとした。
 《フェアリーソウル》が孵ったのは覚えている。しかしやはり妖精は生まれず、大樹は葬られたのだ。だがティティは沈んでいる ような素振りは微塵も見せていなかった。
「気がついたようで何よりです。気分のほうはどうですか?」
 横からかけられた、メンゼルのあどけない微笑みに。ミリアも同じく笑顔で返す。
「ご心配おかけしました。おかげさまで、すっかり元気です」
「の、ようですね。その様子からすると」
「あ、あはは………」
 ほどけた寝癖に白い寝間着からはみだす裸足の足。その上片手にシーツを握り締めてベッドから離れた壁にへばりついている 様は、どっからどう見ても、病人のとる行動ではなく。メンゼルの手に促されるがまま、再び寝床へと戻るミリア。

「それにしても、あなたの聖力値には驚かされましたです。……まさか、生身の体で直接《種》に 聖気を注ぎ込むなんて」
「もう少しは楽なものかと思ってたんですが……ひょっとしてもしかすると、かなり無謀なことだったんですか?」
「絶えず聖気を吸っていた実です。大樹から離れた途端、その注入口には穴が開く。底の抜けたバケツに水を溜めるような ものです。半端な聖気じゃとっくに死んでるでしょうね」
 相変わらずのほほんとした笑顔で、そんな末恐ろしいことを言うものだから。
 ミリアは思わず、ざっと血の気が引くのを感じた。
「ど………どーりでいつまでたっても手ごたえがないわけで……。終わったら終わったでものすごく疲れてるし」
「まぁ、ほぼ無限と言っても限界はつきものです。それにたった4日でそこまで回復したのも、ラーグの適切な処置が あったからですし」
「ラーグの…?」
「はりゃ?彼から聞いてないですか??」
 キョトンと問い返すメンゼルに、ミリアはただ頷くしかできない。メンゼルは「相変わらずですねぇ」と小さく苦笑したあとで、 ミリアに説明する。
「あなたが倒れてここに運ばれて4日間。彼はずっとあなたに自分の聖気を送り続けてたんですよ」
「……へっ?」
「ほとんどゼロに近いまでに減ってたので、あまり一気に与えては身体の負担が多すぎるため、少しずつ流し込んでいたようですが。 ある程度まで溜まれば、聖女は自分の力で聖気を作り出せますからね」
 言われたことを、もう一度頭の中で整理して。ミリアは軽く、自分の知っている知識を反芻した。


 聖気は本来、自分の体内で生まれ、決まった聖力値を保とうとする。それは先天的なもので、一般的に聖力値が高いもの はそれなりに強い魔法を使えるし、逆に低いものにはすぐに限界がくる。だが《見初められた者》である聖女の場合は特殊だ。 彼女たちは、常に聖気を生み出し続ける。つまり、聖力値にリミッターがない。それゆえにほぼ無限の聖気の持ち主と称される わけだが……………
 今回のように、自力で生み出せないほどに消耗したときは、他者から聖気をある程度分けてもらう手段がある。 その場合、供給者は需要者に常に触れていなければならないのだ。そこを起点として、聖気を流し込む。


 ―――――――と、修練学校で学んだよーな気がする。

「じゃあ、『用は済んだ』って……」
「『それだけ回復すれば、もう聖気供給は必要ない』ってことでしょうね」
「アイツ、あのまま隣の部屋で寝るっつって入ってったわよぉ~」
 気のないティティのコメントにも、ミリアの顔は呆けたままほどけない。
 ややあって、どっとしたため息が喉から溢れた。
「……ほんとにもう、分かりづらい……」
「私も昔はそう思ってたです」
 にっこりと、メンゼルがどこか嬉しそうに言った。
「でも、考えてることは案外単純な子なんですよ?」
「………そうでしょうか?」
「ええ。あなたがそれ以上に単純すぎるだけで」
「……………………」
 やはりいつもと変わらない顔色で、平然と言ってのけるメンゼル。しかもそれがなんとなく図星のような気がするから言い返せない。 ラーグが彼女を苦手としているわけがちょっぴり分かったような気がする。それともこれは、人と幻獣の感覚の違いによるもの なのだろうか?
 そんなことをちらちら考えていると。
「ところであなたたちは、魔剣《レガイア》を探しているそうですね」
「れがいあぁ?ナニよそれってば」
「――あ!そう、そうです。メンゼル様」
 はっと気づいて、ミリアはメンゼルを振り返る。
「《レガイア》ってなんですか?」
「「……へ」」
 間抜けな返事は、メンゼルだけでなくティティの口からも漏れていた。
 身を乗り出したティティが、「ちょっとマッテ、ちょぉーっとマッテマッテ!?」とミリアの目の前を飛ぶ。
「なんですかって……よく分かんないけど、アンタたちはそれを探して旅してんでしょ!?」
「いや………確かにまぁ、そーなんだけど」
「……ラーグから、何も聞いてないですか?」
 ミリアが頷くと、彼女はしばらく硬直したまま動かなかった。
「ほんとはイロイロ聞きたかったんですけど。1度だけその機会ができたときも、3つまで答えてくれるはずが2つしか 言ってくれなかったし……」
「なんて言いますか……ラーグにも問題あるですが、あなたもよくそれで彼についてきてるものです」
 呆れと言うよりは感心に近い声色だったため、ミリアはその言葉にさほど不愉快は感じなかった。
「とは言え、目的の正体も知らなくては話にならないですね。よしっ、分かりました。私が教えましょう。魔剣《レガイア》 ―――それはこの世界に存在する、《三大宝剣》のうちのひとつです。これは知ってますよね?」
「…あ、はいっ。私の体の中にもその《三大宝剣》のひとつ、聖剣《セルフィート》が入ってますから」
 確かめるように覗き込むメンゼルに、ミリアは慌てて答えた。
 イリス家に代々伝わる古の聖剣。それが《三大宝剣》に属するものだと知ったのは、彼女がそれを継承する直前だった。他にも もう一本、霊剣《クラウディア》が存在するというが――――。《レガイア》共々、その力や所在は一切不明だ。
「そう。あなたの持つ《セルフィート》は、魔を滅する剣。それに対して《レガイア》は、魔気を吸収し聖気を消し去る、文字通り 魔剣です。言い伝えでは、その力は神をも滅ぼす威力を持つとも言われている――」
「か…っ神をもって……」
 あまりにも理解の範疇を超えた回答に、ミリアはしばし現実感が持てないでいた。
 そんなもの――そんなこと――――不可能だ。神を、滅ぼすなど。
「無論、言い伝えに過ぎません。ただし《三大宝剣》の力が絶大なのは確か。教会が恐れているのは、それほどの ものが魔族の手に渡るという事態でしょう。とりわけ強い魔族のものになれば、なおさら分が悪いですね」
 さすがは五大賢者中でも最高の知識を持つと称される存在か。淡々と的を射た見解を連ねてゆくメンゼルに、ミリアは 真剣な眼差しで頷いた。

「う~ん…よっく分かんないけどぉ……よーするに、ミリアたちはその物騒な剣を探してるってわけね」
 少し話が難しかったのか、ティティが出したのは、結局そういう、さっぱりした結論だった。
 ほどよく緊張感をほぐされたのか、メンゼルも元通りの幼い表情に戻る。
「あまり複雑に考えるのはよしましょう。あなたたちが追っているのは、とても危険な剣。それだけ常に頭に入れておいて もらえたえたら十分です」
「はい」
 即答し、ミリアはそっと窓の外を見た。この位置からは空しか見えない。突き抜けるように透きとおった、蒼天の空。 ラーグの瞳の色。この、壁一枚を経た隣で、彼はぐっすりと眠っていることだろう。4日もの間一睡もせず、絶えず聖気を 送り続けることがどれだけの疲労を生むか、ミリアにも少しは想像できた。
 それらをまったく顔色に出さないのだから、ある意味すごい。
 彼は性悪だし、嫌味だし冷たいし勝手な男だが、自分の功績をひけらかす行為も絶対にしない。

 ……どうしてだろう。

 ずっと、彼のことが分からないと思っていた。それもそのはず。ラーグは自分のことは全く話さないのだ。だが、原因は それだけではない。…………自分が訊ねないからだ。今まではその気すら起こらなかった。どうせ答えてくれないだろうと 踏んでいたから。それは今も変わらないだろう。
 でも―――思うのだ。

 彼を、知りたいと。そうすればメンゼルのように、彼の横であんなに朗らかに笑うことができるのかもしれない。
「……まだ、知りたいことが山ほどあるって顔してますね」
 メンゼルの鋭い指摘に、思わず背中が強張った。
「私が知っていることでよければ、お話しますよ?ラーグが話さない、ラーグのこと」
 幼い大賢者の瞳は、相変わらず淡く優しい深緑色―――。
 本音を言えば、知りたいことが山ほどあった。ラーグはここにはいない。訊こうと思えばいくらでも訊ける。


 けれど。


「お心遣いありがとうございます、メンゼル様」
 ミリアは、はっきりと通る声で言った。
「でも、やっぱり話さないのはラーグなりの事情があると思うんです。本人のいないところで、おいそれとそれらを 他人から訊きだすわけにはいきません」
「それで、いいんですか?」
「あたしは、ラーグが自分の口から話してくれるのを待ってみようと思います」
 そう言って微笑んだミリアを見て、メンゼルは瞼に、ひとりの聖女の姿を映し出した。
 ……………アリシア……
 あなたなら、確かにそう言うでしょうね。あなたもあなたの娘も、本当に優しい人だから。
「ラーグの従者が、あなたで良かった」
 一時は異を唱えた。この状況は、―――……ラーグには、あまりにも酷すぎる。けれど彼女なら、それすらも解きほぐしてくれるかもしれない。 今度こそ――彼を、解放してくれるかもしれない。

 《盾の聖女》が成せなかったことを、《剣の聖女》が成せるかもしれない………




+++++++




 ラーグが出立を決めたのは、その翌日だった。
「街行政の面倒事に付き合う気はない」
 それがその理由である。

 ミリアが孵らせた《豊穣の種》は街の中にも広がり、壁という壁、床という床一面に色とりどりの植物を咲かせていた。モノは形 から…とはよく言ったものか。それから街の人間たちは、妖精に対して寛容になりつつある。
 大樹に喰われた人々の何人かが、無事に救出されたのだ。
 泉の魔物は地中に引きずりこんだ人間から、徐々にゆっくりと聖気を吸い取っていた。それゆえに、聖気量の多いものや 遅くに取り込まれたものはなんとか仮死状態のまま生きつなぐことができた。メンゼルが真っ先に喰われたのに助かったのも、 幻獣が人を超越した聖気を持っていたためである。
 しかし、やはり犠牲者の存在は拭えなかった。現にジャンという少年は助かったが、彼の兄は手遅れだった………

 そんなこんなで、今《クレイシア》は大忙しだ。
 《浄化の泉》が無効化していたことを告げずにいたグロフト市長の後任と新しい市長の選出。また、西の広場の妖精像の再製作。 その他諸々。ラーグにしてみれば、確かに面倒事だ。
 見送りに来てくれたメンゼルに、ミリアは軽く頭を下げた。
「お世話になりました。メンゼル様は、まだこの街にいらっしゃるんですか?」
「はい。調べていた研究がまだ残っているんです。それが終わるまでは。――あ、そうそうラーグ。ちょっとちょっと」
 言ってメンゼルは、低い位置から長身の神父を手招きした。視線だけ落として怪訝顔をするラーグに、メンゼルは少し勿体ぶった あとで。
「ふっふっふ~…………じゃじゃーーんっ!心の師から教え子にプレゼントですーっ」
「結構です」
「ふぇっ!?」
 品を出す前にあっさりと切り捨てられ、メンゼルはカチリと固まった。だが、すぐに復活。その、「プレゼント」をラーグの 前に突き出す。
 それは、一対の白い手袋だった。一見普通の布教用のものと変わらないが、よく目を凝らして見ると、内側にびっしりと 文様のようなものがある。
「3日間おやつも食べずに頑張って精製した、特別製ですよ~?これなら魔族に触って聖魔導使っても、腕を傷つけることはないです」
 え!?それは便利な。特にあたしにとって!!
 ぴくりと耳ダンボになるミリア。彼の傷はいつも自分が治している。そんなアイテムがあれば、その手間が省けるというものだ。
「ラ、ラーグ。せっかくですし、ここは遠慮なく……」
「何を楽しようとしている」
「う…………」
 モガモガと尻すぼみに消えるミリアの声。
 だがそれよりも効果を発したのは、やはりメンゼルだった。
「あなたは少しくらい、他人に借りを作っておくべきですよ。心配されるのが嫌なら、原因を作らないでください?」
 そう、「にっこり」と微笑まれる。ラーグの逆らえない微笑みだ。
 黙したまま手袋がほぼ強制的に右手に突っ込まれるのを、甘んじて受け入れて。メンゼルは満足そうに笑う。
 そして。

「ラーグ、ここよりずっと東へ行くです」
 メンゼルが、街とは反対方向を指差した。
「分かってると思いますが、私も《レガイア》の所在については一切知りません。人の知恵はもう頼りにならない。―――幻獣の森《ルドル》………そこにいる長老なら、 きっと何か知ってるはずです。あの方々は齢千年を越えていると言われている。四百そこらしか生きてない私とは格が違います」
「幻獣は、他種族との交流を極端に嫌っていると聞きますが」
 無表情のまま問い返すラーグ。
「確かにそうです……が、事が事ですからね。彼らとて、《レガイア》を野放しにしようとは思わないでしょう」
 降りてくる沈黙。そしてラーグは、無言で歩き出した。メンゼルの差す、東の方角へ。
 もともと目的地がはっきりしている旅ではない。ならば、どこへ行こうが同じだろう。
「あ、ちょ……待ってくださいラーグっ」
「ミリア」
 後ろも顧みずズカズカと進んでいく神父の黒い法衣を追おうとしたミリアの背に、メンゼルが呼びかける。
 振り返るミリアの手を自分のそれと重ね、優しく笑んだ。
「これから先、あなたがラーグのことを知る機会があっても。例えばそれが、あなたにとって楽しいばかりのものではなくても。 ………どうか、ありのままの心で、ありのままのあなたでいてください」
「………??」
 首を傾げていたミリアに、メンゼルはただ、あどけない微笑を送るだけだった。
 去っていく二人の影を見送り、その姿が見えなくなると、帰路につく。


 それはきっと、………ラーグを溶けない氷の檻から解放する、温かい光となってくれる――


+++


「あの、ラーグ」
「…………………」
 呼びかけてみるが、いつもと同じく彼は返事をしようとしない。これだからいつも諦めて、こちらからも口を開こうとは しなかったが――――。
 ミリアはきっ!と覚悟を決めると、ラーグの前に回りこんだ。そして、勢いよく頭を下げる。
「聖気を分けていただいて、ありがとうございましたっ!」
 ラーグの足が止まる。……いや、自分が立ちふさがっているので、嫌でも止まるしかないのだが。
「メンゼル様から聞きました。4日もずっと、あたしに聖気を注いでくれてたって………相当に疲れていたはずなのに、 何も知らないで起きて早々勝手なことばかり言っちゃって………本当にすいませんでしたっっ」
 妙な沈黙が、二人の距離を支配する。頭を下げたままなので、彼の顔色が分からない。ならば上げろと言うものだが――― こう正体不明な間が置かれると、上げるタイミングというものが…………
 と。
「………それで?」
 ようやく発した声に、ミリアが「――へ?」と頭を上げる。
「で、どうした」
「どうって………イヤ、だからその………お礼を言わねばと……」
「それだけか?」
「え?あ、はい」
「ならもう行くぞ」
 言って、実にくだらなさそうに横へどけられ、素通りされた。

 ……と、思ったが、彼は思い出したようにミリアの方に近づくと。
「それと、こいつをなんとかしろ」
 うっそりと言うと、ミリアのマントを掴み、思いっっっきり、揺さぶった。するとそこから小さなローズピンク色が振り落とされ、 成すすべなく大地にべしゃりと叩きつけられる。
「――わぴっっ!?」
「ティティ!!!?」
 呼ばれた妖精はしばしの間地面に突っ伏したまま沈黙を保ち。
 突如、ものすごいスピードでラーグの眼前に飛んだ。
「ちょぉーーーっとこの非道神父!!いきなしなんってコトすんのよ!危うく素敵なお花畑に行っちゃうとこだったじゃないさ!!!」
「それは惜しかったな」
「きぃーーーーッ!なにが惜しいのかゆっくりじっくりとっぷり教えていただきたいもんですわよねぇ!!?」
「ちょ……ちょちょちょちょっと!?なんでティティがこんなとこにいるの??」
 街を出る際、ティティはどこを探してもいなかったのだ。せめて会っておきたいと思っていたので、少し心残りだったのだが………… まさかこんなところにいようとは。
 ティティはその言葉にピクリと羽根を震わすと。
「ア…アタシは、その………なんていうかえっと……アタシも……ア、アタ……」
 何やら言いにくそうにモゴモゴ詰まらせるティティ。だが意を決して拳を握ると、ラーグをびしりと指差した。
「アタシも連れてきなさいっっ!!!」
「却下」
 ………速かった。どっからどうやっても弁解のしようがない、見事な断りっぷり。面白いことに羽根まで石化したティティを 無視し、ラーグは先へと歩みながら。
「……断る、邪魔だ、消えろ」
「なんですかその清々しいまでに羅列される拒絶の言葉はっ!?」
 ツッこむミリアのコメントに、ラーグは不機嫌丸出しな面を振り返らせた。
「街はもうお前を蔑んだりしない。大樹以外でも、いくらでも寄り所はあるだろう」
「それは……っ…。そーだけど………」
 言葉を濁らせたあと、ティティはバツが悪そうにしばらく口を尖らせて。
「いーじゃないの別に!言っとくけど、アタシはミリアと一緒にいたいのよ!?冷徹非情自己チュー神父からミリアを守るのは、 友達としてトーゼンでしょがっ!」
「軽々しく、一緒にだの友だの口にするな。本人の了承も得ないままで」
 言い捨てるラーグの言葉に、ティティは「う」と苦い表情をする。そして、弱々しく確かめるように、ミリアの顔を覗きこんだ。
 ミリアは、少し考え。
「………だめですか?ラーグ」
 小さく問う。ラーグは呆れたようにため息を吐いた。
「俺に訊くな」
「はい?」
「自分で言っただろう。責任は持つ、と」
 立ち尽くすミリアに、ラーグはそのまま再び背を向ける。「責任は持つ」――――それは、ミリアがティティを監視するといった 約束を交わしたときに発した言葉だった。
 ………えっとつまり……………
「連れていってもいいんですか?」
「面倒は自分で見ろ。鬱陶しいようなら、即捨てるぞ」
「は、はいっ!」
「まず、そのやかましい口を黙らせろ。それから、騒ぐな喚くな動くな食うな寝るな……平たく言えば、何もするな」
「アタシに死ねってか!!?」
「はい!ちゃんと言い聞かせますっ」
「って、ちょっとミリアっ?マジ!?」
 何も考えずに元気に返事するミリアに、ティティがざっと身を引く。
 幻獣の聖地――《ルドル》までの長い距離。

 とりあえず一行の旅は、騒がしくなりそうだ。

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