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キサ

Author:キサ
ファンタジーとバトルとラヴをこよなく愛し、熱しやすく冷めやすい社会人。

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【第4章】魔の血族 -the demon blood- 3

2016.05.16 21:29|クロスマテリア
 ・・・・・・・・別にラーグが誰と話していようが、自分には全くもって関係ないことで。
 そもそも、彼の人付き合いに『親近感』という単語が当てはまるような微笑ましさなど、いつだって皆無に等しく。
 どちらかと言うとそんなものよりは、淀んだ紫色かもしくは鋼鉄の冷気の如きオーラをまとっていたわけで。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ――て言うか。
 なぜ自分はこんなにも深刻に、しかも誰に言い訳しているのだろう?
 自分は彼の従者。実にシンプルな答えではないか。たった7文字しかない。バッチリだ。 頭ではそう分かっているし、彼の冷徹非道っぷりときたら魂にまで刻まれている自信もある。
 ――そう、分かっては、いるんだけれど・・・・・・・・


「ど・・・どーしたのミリアっ?なんか・・・秒速で眉間の皺が増えてるわよ?!」
「・・・・・・・・へ」
 ぎょっと目を押し広げるティティの声に、ミリアは返事なのかどうかよく分からない言葉を発した。
 いつものきょとんとした表情に戻ったミリアを見て、ティティもどこかほっとしたように息をつく。
「イキナリ黙りこむからビックリしたわよ~。何、悩み事??」
「悩み・・・・・・?」
 それでもまだ少し呆けていたのか、ミリアのほうはどこか思考が鈍く。
 ややあって、小さく首を傾げつつ、薄く唇を動かした。
「・・・あたし、何に悩んでんだろ?」
「・・・・アタシに訊かれてもさ・・・・・・・」
 だめだこりゃ。と呆れ顔で首を振ると、興味津々な妖精はすぐさま目の前のエサに飛びついた。
「しっかしま~オモシロイ偶然ねぇ~。ナニ話してんのかしら?声までは聞こえないから分かんないし・・・・」
 薄汚れたランプの蓋へ腰掛け、ぐいーっと上体を屈めて映像を眺めるティティ。つられるように、ミリアももう一度そこに 映し出されたラーグの姿―――いや、この街での『記憶』に視線を移す。
 確かジンは、時間軸がランダムだと言っていたか・・・・・
 だとすると、これも今現在起こっているものではないのかもしれないが――――
 ラーグの向かいに座る女性は、人と呼ぶにはあまりに妖艶なまでの美しさを備えていた。あぐらと粗野な仕草が実に惜しい ところだが・・・・間違いなく、才色兼備の「才」と「兼」を省いた言葉ならピッタリといった具合だ。
 見た感じでは20代の後半ぐらいだろうか。
 早い話が、どう逆立ちして頑張ったところで、数年後の自分には到底なり得ないほどの美女である。
 ・・・・・わざわざ寄り道してまで会いに行くとは、一体どういう人なのだろう?
 胸の中に変なモヤモヤを残しつつ、ミリアが今までラーグに変化がなかったか思い出そうと努めていると。
 ふいに、ずっとだんまりを続けていたジンが口を開いてきた。
「・・・・・コイツ、お前の連れか?」
「え?うん・・・ラーグ=クラウドっていって、教会の神父。あたしはこの人の従者で・・・」
「フーン・・・・・・」
 魔族特有の血色の瞳を向けながら、ジンはそのまま半眼で神父の姿を映し。
 沈黙時間がリミッターを越えたのか、ティティが軽やかにジンの前へと羽根を動かした。
「なんか不機嫌ねぇ・・・ってかアンタはさっきからずっとそんな感じっぽいけど。教会関係者2人のトコに出てくるなんて、 かーなり運が悪かったって~???」
 意地悪く言うティティの含み笑いを一瞥し、ジンはまた人一倍鬱陶しそうに息を吐いた。
「はぁ?ナニ訳わかんねーこと・・・あのなー、オレはもともと聖気の特別強い奴でなきゃ、呼ぶどころかランプに触れもできねーの。 しかもオレをこんなにしやがったのはまさにその教会のクソジジイどもだし。『呼ばれる=聖職者』ぐらいは当然なんだよ」
 当然と称しながら、ジンの態度はあからさまに苛立ちがむき出しで。
 それでもぶつける対象となるべきものが見つからないのがさらに苛立ったのか、憮然と腕を組んで壁に背を預ける。
 そして、傍らで突っ立っているミリアへ投げやりに言い捨てた。
「なんだよ。ついさっきまであんだけはしゃぎまくてたっつーのに、急に黙りこくりやがって」
 質問されたのが自分と理解するのに逡巡の時間を要し、ミリアは無意識のまま「はへ?」と間抜けに返してしまい。
 慌てて答えを探す少女を変わらず半眼のまま眺めると、ジンは両手の鎖をジャラリと奏でて「ああ」と手を叩いたあと、
「あ゛ー・・・まぁ、なんつーか・・・・。気持ちは分からんでもねぇがよ、ちょっと他の女んトコフラついてるくらいでンな 沈むんじゃねーっての。相手にだって選ぶ権利があるモンだろ」
「ナニいきなり恋愛相談所になってんだか・・・」
「そ、そんなんじゃないし!ってか何よ選ぶ権利って。あたし遠まわしにバカにされてる?!」
 生ぬる~いジンとティティの視線を浴びながら、しかしやっぱりモヤモヤが晴れることはなく。いつまでも答えが出ない自問を 感じつつ、ミリアは逃げるようにランプの中に視線を落とした。

 かれこれ10分くらいは話している。あくまでここに映っている状態で、だが。実際はそれよりも短いのか、それとももっと長かった のか―――。微睡むように流れる時間を想像するミリア。・・・と、突然ランプの肌を染める景色が一変した。
「え・・・何?」
 ぎょっとしたのはティティも、そしてジンも同じことで。
 刹那を置いてその表面に現れたのは、先ほどと変わらぬ2人の男女。―――いや、違う。ラーグたちではない。
 男のほうは短く切られた栗色の髪と藍の瞳。その奥から、人懐こい笑みが惜しみなく覗いており。そして女のほうは、勝気で 呆れたような紫の瞳を男のほうに注ぎつつ、しかしどこか幸せそうにため息をついていて――――
 そんな両者の微笑みがこちらに向いたのを見て、ミリアは思わず声を呑み込んだ。
 横から、ジンのしかめっ面が伸びてくる。
「?なんだこりゃ。この街・・・じゃねぇってことは――お前の『記憶』か」

 ・・・・・知っている。
 こんなに鮮明に残るほど、鮮やかではなかったけれど。憶えている。漠然と。
 男と女の伸ばした手を、小さな両手が掴んだ。
「父さんと・・・・母さん」

 漏れた言葉に、ジンとティティが素早く反応し。
 振り返って飛び込んだものに、ジンはぎょっとして身を起こした。
「な・・・っ なんで泣いてんだ?!」
 まるでこの世のものとは思えない物体を見たかのようにザッと引くジンの台詞に、ミリア自身も初めてその頬に温かい滴が触れて いることに気づき。気づいたが最後。本人の意思に反し、それはとどまることなく溢れ出してきた。
「あれ?えと・・・・・なんで・・・」
 擦っても擦っても、ただ修道服の裾が濡れていくだけで。ワケが分からず混乱しながら、ミリアは音のない『記憶』に涙を 零し続けた。
 どうしたというのだろう?騎士となってから――いいやそもそも、物心ついたときから、涙を流すことなどほとんどなかったのに。
 いついかなるときでも、凛と胸を張って生きるのが騎士であると、そう教え込まれ。今までだって、ずっとそれを自然とこなしてきたのに。 このところ―――そうだ。《ルドル》からこんなだ。ずっと・・・・・・

 あの神父と会ってから、ずっとこんなだ。


「ミリアっ?だいじょぶ??ちょぉーっとヤンキーッッ。一体何見せたのよ?!」
「―ハァ!?こりゃコイツの『記憶』なんだからオレが知るわきゃねーだろが!――と・・・」
「・・・・・・あら?」
 ごしごしとひたすら充血した目を擦る少女を挟んで言い争うジンとティティの視点が、再びランプの表面に注がれ。『記憶』が 途切れたのか、再度現れたイリーダの街並み。その一点を凝視してカチリと固まる両者の沈黙に、ミリアもきょとんとしたまま 問いかけた。
「??ど、どーしたの?」
 ランプを指差し、最初に口を解放したのはティティだった。
「・・・・・・・コレ・・・・ラーグよね?」
「え。・・あ、ほんとだ。どこの階段上がってんだろ?」
「アタシさ・・・・・この部屋来るとき、おんなじ風景見た気がするんだけど」
 消えるような妖精の声は、室内全域をフリーズさせた。ミリアの額に、じんわりと汗が滲み出す。
「で・・・っでも、時間軸がバラバラだったらもちょっと先のことってコトも――」
「『記憶』っつったろが・・・・・過去や現在は見れても、未来は見えねーよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 全員の行動は、速かった。
 凄まじいスピードでランプの映像を消し去り、かつ小声で一気に狼狽するジン。
(どどどどーすンだよッ?笑顔でアッサリ魔族を受け入れてくれんのか!?)
(ダメね!どっちかってーと無言でバッサリ粉々にしちゃう外道神父だわっ)
(即答かよッ)
 ティティの迅速な判断に頭を抱えるジン。
(隠れるっきゃないでしょ!ジン、とりあえずこのランプの中に―――)
(アホ!擦ってどーすんだ。入るときゃフタ開けろフタ!)
(・・・・・!?開かないんですけどっ?)
(だぁー!!回し蓋じゃねぇっつの!こっち貸せ!)
(へ?――わわっ?!)

 ・・・・・・・・・・・・・・以上。経過時間約10秒。
 まるで数奇な悪戯のように。・・・・ラーグが扉を開けて入ってきたのは、まさにそのときだった。
 「やかましい」。いつもと変わらず、うっそりと口にしようとしたのだろうが。室内の現状を見るや否や、その台詞は発することなく空気に消えた。

 あまり高くない宿の中には、従者が1人、妖精が1匹。だが彼の予想を色んな意味で超越していたのは、そこに見知らぬ男までプラスされていたことで。
 しかもランプを取り返そうとした反動で、バランスを崩して仰向きに倒れこんだミリアの上にジンが乗っかっているワケで。
 さらに言うなら、驚いた表情のまま停止しているミリアの目がうっすら潤んでいたりと。

 ・・・・オレ、今日死ぬかも。
 永遠とも呼べる静寂の中、ジンは生き物の本能でそう直感していた。


「・・・・・・・・・・・・・何をしている」
 スッと表情を消し、ようやくそう口にしたラーグの目は、まるで処刑直前の相手を見るように冷めきっていて。
 それが真っ直ぐに自分に向けられていると察すると、ジンは押し黙ったまま目を合わせまいと努力した。たぶんこの空気・・・・・・ 何か喋ったり視線が合った瞬間、殺される。なんか、そんな気がする。
 だがそのとき、弾かれるように返事をしたのは、ミリアだった。
「・・・おっ、おかえりなさいラーグッ!丁度いいところに~!この人は・・・えっと、マ・・・マイクっていって、修練学校時代の研修で知り合った友達なんですよ~。聖都に構えていた旅一座さんの一員で、こんなカッコしてんのもホラ・・・・こ、こっちでついさっき舞台が終わった ばっかなんですって!で、買い物してたら偶然バッタリ運命のごとく遭遇して、久しぶりに話でもしようかと部屋まで案内したらば、 イキナリ隣のご夫婦がケンカで放り投げてきたこの流れ弾もとい流れランプがぶつかりそうになったのをかばってくれたらば こんな状況に・・・・・・ッ!!」
 焦燥に満ち満ちた顔で一気にまくし立て、なんとか理由らしき言葉を並べてみるミリア。
 筋が通る通らないなど、この際知ったことか。側でジンが「マイクってお前・・・・・」と思いっきり言い返したさそうな顔を していたが、もう見えてないフリを決め込んだ。
 しばらくして、ラーグはゆっくりと視線だけミリアに移し。
「ほぅ・・・・・」
 息をつきながらも、翠の瞳が明らかに怪しい光を宿したのにいち早く気づいたティティが、身振り手振りで「ミリア!だめっ。バレ てるっ!!」と伝えようとするも。ネジが吹っ飛んだ少女は気づくこともなく。

「なるほど。友人か」
「そっ、そうなんです!いやぁほんっっとーに久しぶりで・・・」
 不自然すぎる笑顔を見せるミリアに近づき、ラーグは絶対零度の笑みを滲ませて淡々と続けた。
「お前に、魔族の友人がいたとは知らなかったな」


 ミリアが観念するのは、清々しいまでに一瞬のことだった。



 どこからどこまで話すべきか思考の堂々巡りを繰り返しだすミリアそっちのけに、ラーグは無言のまま、転がっていた ランプを手に取る。さすがは『祝福された者』の神父と言おうか。聖気の結界は、伸ばされた手をあっさりと受け入れた。
 ・・・・教会が裏であれこれと「面白い」実験を行なっていることなど、身を以て熟知していたわけで。むろん、昔ある魔族が賢老院に捕らえられた話も記憶に鮮やかであり。
 ラーグは片手に聖気の光を集めると、軽くランプの表面を撫でた。
 途端、ジンがこれまで見せたこともないような苦悶の色を頬に滲ませる。声は上げなかったが、痙攣する眉とびっしりとこびりついた 汗から、激痛であろうことがミリアにも分かった。
「・・・・・ったく。また随分と手荒なやり方だなオイ」
「痛覚は残っているのか。これほどの誓約に縛られながら、大したものだ」
 まるでなんでもないように非難を流し、聖気の宿る手を離した先―――
 曲線を描いたランプの肌に、先ほどまでなかった紋様・・・・呪紋が刻まれていた。同時にジンの胸部にも同じものが現れたことから、 これが彼とランプを縛りつけている誓約であるのだと、ミリアはすぐに分かった。
 その一部には、3本の楔のような紋様があるらしく。しかしそのうちの1本が明らかに欠けているのを確認すると、ラーグの 視線は再びミリアに戻った。
「・・・魔族棲息域へ乗り込もうというこの状況で、のんびり願いごとか」
 責めというよりは呆れの込められたため息に、ミリアもさすがにカチンときたらしく、
「な・・・っ。のんびりまったり女の人とお話してきた人に言われたくありません!」
 うっかり滑らせてしまった瞬間、慌てて口を押さえるも――――。時すでに遅し。
 返答の意味を一瞬考えたのち、ラーグの目はみるみる呆れから静かな怒りに転換していく。
 口だけはたっぷりと皮肉のこもった笑みの形を作り、低い声は静かに響く。
「教会内部はほぼ知り尽くしているつもりだったが・・・・誇り高い聖堂騎士の趣味が盗み見とは知らなかったな」
「・・・・・・・・・・っ」
「ちょ、ちょっとラーグッ?違うってこれは単なる偶然――」
「いい、ティティ」
「・・・ミリア・・・・・」

 確かに、ラーグを発見したのは町の『記憶』を眺めている途中の完全な偶然に過ぎなかったけれど。
 むしろショックだったのは、無意識とはいえラーグとあの女性は親しいのだろうと決め付ける物言いをしてしまった自分の浅はかさで。 メンゼルのような、昔馴染みの知人だったりした場合、やはりただのんびり願いごとなんかをしていたのは自分というわけであり。
 その結果、彼にこんな見られ方をされてしまうのも納得する反面、どこか激しく情けない気がして。
 到底目を合わせる気にもなれず、一言すみませんとだけ呟くと。
「ちょっと・・・・・・・買い忘れがあったんでもう一回市場に行ってきます。夕飯には間に合わせますから、ラーグは休んでてください」
 そう言うと、返事が返ってこないことなど予想できていたため、ミリアはトボトボと部屋を後にした。


 慌ててついていったティティも出て行くと、ガランとした室内は、実に言いようのない空気で満ち満ちていたわけで。
 やがて静かにベッドに腰を下ろすと、ラーグはやはり無言のまま、煙草を吸いだした。
 最高な居心地の悪さを感じつつ、かと言って行く場もないジンは、バツが悪そうに切り出す。
「ただ逃げるみてーに飛び出すのは嫌ってか。強情な小娘だねぇ・・・」
「この場にいたくなかったのなら、結果的には逃げたと同じことだ」
「・・・・・お前、大概ひでぇよな。神父って聞こえたのはひょっとしてアレ、オレの空耳?」
「煩い」
 魔族でもここまでひどかねーと思うぜ?と半眼で息をつくジンに短く言い返し、ラーグはまたも黙り込んだ。
 そのあからさまな反応を楽しむかのように――しかし全身の警戒は解かぬまま、ジンはわざとらしく肩をすくめ。
「――へッ。こりゃまた随分と感情豊かになったモンだ。失敗すんのは、1回で懲りんのかねェ」
 皮肉と嫌悪を込めた意味深な言葉に、ラーグはやや間を置いたあと―――同じく不敵に笑った。
「数奇な巡り合わせで、憎むべき相手が目の前にいるのがそんなに嬉しいか。ならばアリシアの娘を主としたお前もまた、 その流れに引きずり込まれたクチだろう」
「アリシア・・・?―――ってまさか、『盾の聖女』かっ?しかも娘って・・・・。・・・ったく、ナルホドな。どうりで・・・。 生き写しじゃねーか」
 記憶を反芻し、納得するジンの横顔は、どこか煩わしそうに歪められていて。
 自分の置かれた状況がどれだけ厄介なものかを自覚すると、やはり運命とやらを呪うしかできず、わしゃわしゃと頭を掻きむしった。
「まぁ・・・主人にされちまったもんはやり遂げにゃならんってか。誓約から解放されない限り、オレは教会のオモチャだ」
 誓約の解放。その部分のみを取り上げ、ラーグは抑揚のない声で問い返す。
「そのことは話したのか」
「―ケッ。主人に解放手段を話すことも、また別の誓約で禁じられてンだよ」
「・・・貴様、一体いくつの誓約を刻まれている?」
「知りてぇか?きっと両手じゃ足りねーゼ?魔族の体がどれだけ誓約に耐えられるかの実験だったみてーだしな」
 赤い瞳に煌々と憎悪をたぎらせ、ジンは過去に受けた屈辱を蘇らせる。
 だがその感情は、スッと氷のような鋭さを帯びたかと思うと、今度は真っ直ぐに眼前の神父を捉え。
「けどな。正直な話、オレにとっちゃあんな小物はどーでもいい。オレが憎んでるのは、たった一人だ」
 翠と緋の目がぶつかり、ジンは沸々と感情を押し殺した声を絞り出す。

「あの日――お前がオレを召喚したせいで、オレはこんなになっちまったんだからな」





+++++++





 ところどころで、ティティが何か言っているような気はするものの。
 それが会話としてインプットされていないのか、ミリアの耳にはまったく届いていなかった。
 なんだか頭がぐちゃぐちゃで、何に落ち込んでいいのかすらも理解できず。回りに回る思考の結末は、いつも自己嫌悪というゴールで綺麗にストップしていたので、結局はやはり沈むことしかできなかった。
 ・・・・・・こんなことではいけない。
 これから魔族棲息域に向かおうという時に、こんな精神的にヨレヨレでは話にならないことなど、ミリアにも十分、分かっていた。 足手まといになることだけは、絶対にあってはいけない。そう誓ったのだ。
 しかし悲しいかな、思い込んだらとことん極限まで行ってしまう自分の性格も、嫌と言うほど自覚していたわけで。
 だったら、適当に間を置いて気持ちが静まるのを待つしかなく。
 もうずっと昔からとってきた回復方法を実施しながら、ミリアは人ごみの中をフラついていた。
「はぁ・・・・」
 常に下を向いてため息を零していたためか。丁度今気づいたようにミリアのほうへ向かってくる人物に声をかけられるまで、 ミリアはその気配にまったく気づかなかった。
「ちょっとちょっと・・・・――あぁ、やっぱり!」
 後ろから肩を掴むや少し強引に顔を向けられ、ミリアは驚いた表情のまま眼前の女性を見――――思わず、吐息が漏れそうになった。
 してやったりと言った様子で頷く女性。見紛うことなく、ランプの『記憶』でラーグと話していた人物であった。
 実物は想像よりやや背が高く、なによりさらに美しい容姿を備えている。・・・・でも、いったい何の用で?
 質問しようとしたミリアだったが、先手を打ったのはタキのほうだった。
「アンタだろ。ラーグの従者ってのは?」
「え?あ・・・はぁ・・・・・」
 唐突過ぎて状況が理解できなかったのか、存外にあっけらかんとした口調に気を削がれたのか。反射的に返すミリアに、タキは 呆れ半分、面白さ半分にクスクスと控えめに笑う。
「あのねぇ・・・・いきなり身も知らない人間に上官の名前まで出されて、『はいそーです』ってアッサリ答えてどーすんのサ」
 ・・・・・・・・。確かに。
 図星と思いつつ、指摘のおかげでミリア本人の頭も落ち着きを取り戻してきたらしく、
「それじゃ訊きますけど、どうして貴方には身も知らないハズの私がラーグの従者だと分かるんです?あの人が事細かにあたしの 特徴を教えるとは思えませんけど・・・・」
「ああ、そりゃコイツのおかげさね」
 笑うのを止め、タキは東洋風の衣類の袖から一本、金色の細い糸を取り出して。
「・・・・・・?・・・・髪?」
「ラーグのをね。さっき喋ったとき、ちょいと拝借したのさ。これがありゃソイツの記憶を多少は覗けるからねぇ。――ったく、可笑しい ったらないよ。まさかあのラーグから、こんなにも簡単に盗れるとは思ってもみなかったサ」
 ケラケラと笑うと、タキは一息ついてそれをおさめ。
「ふー。あぁ、そうそう。あたしはタキ。早い話がまぁ・・・・占いみたいなもんで食ってる奴だよ」
「占術師、ですか・・・」
「・・・なんか、アヤシイ雰囲気がプンプンするわねぇ」
 ミリアとティティの反応のあと、タキは少し酒の香りが残る面をミリアのほうに傾け。
「・・・・フーン。これが、あいつが意地でも連れてこなかった従者かい」
「?・・・・・あの??」
「あー。ナンでもないよ。ちょっと話でもどうだい?ラーグから大体は聞いてるし、個人的に、あんたには興味があったんだ」

 ・・・・なんだか語尾に「いろんな意味でね」という声が聞こえないでもない気がしたが・・・・・・・
 とりあえず悪い人ではなさそうだ。それにどの道、もうしばらくここらをフラフラしてるつもりだったし・・・断る理由もない。
 少し考えた後、ミリアは小さく頷くことにした。

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