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キサ

Author:キサ
ファンタジーとバトルとラヴをこよなく愛し、熱しやすく冷めやすい社会人。

※当ブログの掲載物の著作権は、すべてキサにございます。
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【第4章】魔の血族 -the demon blood- 4

2016.05.16 21:46|クロスマテリア
 赤い色が、大嫌いだった。

 まだ当時は大陸同士の抗争が鳴り止まず、国土全体に貧困と凶作が目立つ時代。
 崩壊された建物と、焼け焦げた大地と、腐りゆく屍たち。日に日に増えてゆくそれらの中が、少女の寝床だった。
 硝煙の臭いが残る壁に背を預け、茫々とした赤い瞳はただ虚ろなまま、目の前を交錯する人間の足元だけをじっと見つめている。
 少女に親はいなかった。片方は人間に殺され、もう片方は人ではないものに殺された。
 まだ手足も伸びきらない子供が一人で生きていくには、環境も、そして生まれも絶望的で。
 腐りかけの残飯を漁りながら、望んでもいない場所に産み落とされたことを何度呪ったか知れない。定まらぬ視点を下ろしたまま、 少女はそっと、自身の額に手を置いた。
 強烈な痛みと共に、まだ乾いていない傷口にこびりつく赤い血が、彼女の指を濡らす。今朝、身も知らない大人たちにガレキの 屑を投げられたときの傷だ。


『さっさとくたばれよ!呪われたガキが、いつまでも寄生虫みたいに・・・』
『おまえのせいだ。戦争が終わらないのも、作物が育たないのも、全部おまえが居るせいだ』
『化け物!出て行け!』


 どんなに理不尽なことを言われても、少女に反発する体力はなかった。あったとしても、もはや何も返さなかっただろう。
 始めのうちは、怒りもしたし泣きもした。けれど、それが何年間も毎日毎日続くと、気力のほうが先に萎えてしまうもので。
 ぬるりと肌に感じる赤い熱を映し、少女は疲れきった頬骨にわずかな感情を走らせる。
 赤い、この瞳と全く同じ、赤い血。
 禁忌の交わりにより生み出された、なんと汚れた色か。
 焦燥に満ちながら、やはり彼女は頭を上げなかった。もう5日ほど何も口にしていない。職をつけようにも、この戦乱の時世。 自分は女でしかも子供。何より、人々が最も忌み嫌う、禁忌の血を宿した子供だった。働くどころか人として見てもらうことすら 困難である。
 霞んでゆく視界に抗うこともなく、少女は力なくその場に崩れ落ちた。
 道行く足の中、いくつかの苦悶とせせら笑うような声が聞こえたのも、もはや一瞬のこと。

 ・・・・・どうでもいい。どうせ、ここらは3日後、南の大陸の大聖堂教会に押さえられるのだ。自分の生まれ故郷は消える。
 自分が楽になったあと、こいつらはせいぜい、血の滲むような牢獄生活に苦しめばいい。

 足掻くことなく、静かに意識を沈めようとしていた眼前に―――――
 ふと、一組の足が止まったのが見えた。
 細められていく少女の目が、ピタリと止まる。すぐに歩き出すかと思いきや、目の前の大きな足は横を向いたまま、ぴくりとも動かない。
 重い動作で首を動かし、緋の目は高い空を見る。
 無言で佇む男の金の髪が、陽に反射して眩しく透き通っていた。





+++++++





 タキという女性に声をかけられ、話がしたいと連れてこられたのは、立ち並ぶ家々でも穏やかな広場でもなく。
 どこをどうやって来たのか覚えられないほど、入り組んだ遺跡たちの奥。一際大きな岩の砦だった。開拓が進んでいる他のものとは違い、そこだけは地面と四方八方に無数の輪が刻まれてある。おそらく、まだ未開の遺跡なのだろうが・・・・・・ 驚いたのは、その足元に掘られていた階段へ、タキが何の躊躇もなくすたこらと足を進めていったことで。
 思わず張り上げそうになった声を呑みこむと、ミリアは慌てて問い出した。
「ちょっ・・・・どこ行くんですかーッ?」
「ん~?ドコって、ココだよ」
「んなこた分かってますっ。分かってるから聞いてるんですッ!未開の遺跡内には、許可の通った教会の人間しか入れないんですよ? もし見つかったらどうなるか――」
「あ、そうそう。中暗いから、コレ。灯りね」
「聞いてるんですか!?・・・って―――ちょっと!」
 言い終わらないうちにさっさと中へ入り込んでいってしまったタキを視線で追い―――――
「~~あーもうっ」
 どうにでもなれ、と、半分ヤケクソ気味にミリアも穴へ飛び込んだ。


 そして。


「あの、そろそろ教えてくれませんか?こんなトコに連れてきてなんの話を・・・」
「ん?あぁ」
 言われてようやく気づいたように、タキの口が沈黙を破った。
「まぁ正直なとこ、話ってのはついででサ。ちょーっとこっちの仕事を手伝って欲しいんだよねぇ」
 突然の要求に、ミリアは頭を傾げるしかない。
 タキは大した引け目も見せず、ずばんと言い放つ。
「実は、アホな客から依頼があってね。この砦の封印を解いて欲しいんだと」
 同じ足取りで階段を降りていたミリアの動きが、きれいなまでに硬直した。
 言葉すら失い、金魚のように口をぱくぱく開いたり閉じたりし続ける少女に代わって、側でのんびりと飛んでいたティティが呆れた 声で言う。
「ハァ?バッカじゃないのぉ?教会ん中でも一部しか入れないってなとこの封印勝手に解いたら、めちゃめちゃ違法行為じゃん」
「そんな人の依頼受けたんですかッ!?」
 ようやく声を戻したミリアの非難に、しかしタキは堂々と鼻を鳴らし、
「フッ。出すモンさえ出してくれりゃぁ、あたしゃ犬にだって従うよ!」
 ・・・・・・誇らしげに反らされた背中が妙に情けなく見えるのは、果たして自分だけだろうか。
 視線をティティに向けると、妖精は無言のまま、大きなため息を吐いた。
 とそこで、「ん?」とミリアの眉が詰められる。
「・・・・・・あの。それじゃまさか、あたしに手伝って欲しい仕事って・・・」
「そ。ちょーっとあんたの聖気で、封印解いてもらいたいんだよねぇ」
 予想通りの答えが返ってきて、ミリアは全身の血をざざーっと逆流させ、両手をぶんぶん振った。
「だっ・・・だめです絶対だめ!何考えてんですか。なんでわざわざ共犯になんなきゃいけないんですか!」
「心配は無用。バレないよーにやるからさ☆」
「そーゆー問題じゃありませんっっ!」
 イリーダは教会の管轄下にある。その遺跡の調査は、すべて賢老院と聴報院に委ねられているのだ。
 古代の遺跡というのは非常に細密で、しかも現在の魔導を生み出す根源になったとまで言われている。事実かどうかは分からないが、 過去に悪戯半分で素人がいじくり回し、街1つを半壊させた事例もあるくらいだ。
 そんなリスクとキツーイ厳罰を背負うほど、自分は馬鹿でもお人好しでもない。
 断固と首を振るミリア。
 すると、しばらく黙り込んでいたタキは急に心底申し訳なさそうに俯いた。
「・・・あたしだって、これがいいことだなんて思っちゃいないよ。けど、こう作物の育ちにくい北の土地じゃあ、手に職がなきゃ生きてけないのさ・・・・・。それに、頼む客のほうにだって、生活がある、ひょっとしたら病気の奥さんとお腹を空かした6人の 子供たちを抱えてるかもしれない。・・・・・・そう、思うとね・・・」
「やりましょう・・・・っ」
「操作するなぁーーッ」
 見えない位置でしっかりVサインを作るタキに渇を入れつつも、ティティの叫びは感慨に浸るミリアには届かなかったようで。
 なにか決死の覚悟を決めたように拳を握る友を前に、もう項垂れるしかなかった。

「だ・・・っ、大丈夫だよ。騎士は弱き人を守るため・・・・バレなきゃいいんだよねっ・・・」
「・・・でもさ~。アンタって信用できんの?なんてーかこう・・・・他とは違うってゆーか。変なカンジすんだけど」
 説明に困ったようなティティの言葉に、ミリアもはっとなる。
 そうだ。そもそもこちらは彼女のことを何も知らない。
 ラーグの知り合いということで安易に信じるには、いくらなんでも間抜けすぎるではないか。
 意外そうな、感心したような口笛を鳴らしたのは、当のタキのほう。
「へぇ・・・敏感だねぇ。ま、妖精ならそう珍しいコトでもないか」
 にんまりと細められた彼女の両眼の、そのあまりの深紅さに。ミリアの背筋に、一瞬ゾクリとするものが走った。
「魔・・・っ」
 言葉にしようとしたとき、ふと、軽い違和感を感じ。
 そのまま答えは、タキ自身の口から出ることになる。いつもの妖艶な笑みを静かに闇の中へ溶け込ませ、彼女の表情は、 その形のまま静止した。
「半分正解」
「・・・じゃあやっぱり。あなたも禁忌の仔なんですね。それも、人と、魔の・・・」
「『も』?」
 間髪入れず返ってきた質問に、ミリアは一瞬きょとんとし。
 慌てて説明した。
「あ!えっとその・・・・あたしの知り合いにもいるから・・・・!」
「知り・・・・・ああ、もしかしてさっきのボウヤか」
「・・・はへ?」
「あぁいや。なんでもないよ」
 勝手に自己完結したのか、ぱたぱたと手を振るタキを少々怪訝顔で見つめつつ、ミリアは納得することにした。

「なるほどねぇ~。どーりで、禁忌の仔って知ってもあまり動じないわけだ」
「何言ってんのよ。んなのザラじゃん」
 しれっと返すティティの台詞に、タキは苦笑した。ミリアにはなぜか、その笑顔がひどく痛々しいものに見えた。
「そりゃ、こっちの大陸が特別なだけサ。あたしの生まれた北の大陸じゃ、・・・そんときは戦争真っ只中だったせいもあるかね。 まあとにかく―――そりゃぁ大層な扱いだったよ。やれ呪い子だの、災いの種だの。いっぺんマジで死にかけたりもしたし。 ラーグと会ったのも、丁度その時だったねぇ」
 軽い調子で語ってゆく話の中で、ミリアの足がぴたりと止まった。
 過去――。自分の知らない遠い地で、ラーグとタキは出会った。そして今もまだ、こうして互いに会って普通に話ができる 関係にある。


 自分は、ただの従者だ。
 はっとなってそう思いなおそうとするも、どういうワケか最初に考えた声が止まない。
 暗闇の中で停止した灯りを見上げ、タキは数段下からにっと笑った。
「どういう出会いだったか、話してほしいかい?」
「・・・・!べっ、別にどっちでもかまいませんっッ!?」
 必要以上にでかい上に完全に裏返った声になってしまい、タキは腹を押さえて笑いを必死で堪えた。
「・・・・っくくッッ・・・あーうん。正直で結構」
「~~~タキさん!」
「タキでいいよ。あ~おっかし。そーだねぇ、あいつとの出会いを一言で言うなら・・・・」
 一瞬黙し、耳を傾けるミリアとティティの前で、彼女はこれだとばかりに腰に手をあて胸を張る。
「とにっかく、最悪だった!」
「「・・・・・・・・はい?」」





+++++++





「世も末だな。こんな子供まで路上で死に絶えるとは」
 一片の慈悲も惜しみも含まない、単調な声。
 かろうじて意識はあったが、自分を助けてくれそうにないことは直感で分かった。
 男が見ているのは、こっちの目ではなく、自分の着ている身なりや飢餓状態、崩れた家々や周りに広がる死骸やゴミ屑など、 現状を淡々と映しているのみ。自分など、まるで風景の一端のように。
 それでも、嬉しかった。死にゆく自分の存在を、少しでも看取ってくれることが。
 たとえ本人にその気がなくとも、無数の足取りの中からただ一人、止まってこちらを向いてくれたことが、何よりも嬉しかった。

 だからこそ
 言わなければ、いけないことがある。


「・・・・に・・・・・・・・・・・げ・・・て・・・・・」
 男の視線は、こちらに落とされない。せめて行ってしまわないようにと、裾を掴もうとするが、力なき手は空しく空を撫でた だけだった。カラカラに乾いた喉から必死で声を紡ぐ。
「教会・・・・・・くる・・・から。・・・・逃げないと・・・・・・・・捕ま・・・・・」
 そこで、初めて男の視線が下げられた。
 胸の奥に―――風が突き抜けるような心地がした。真っ青な、それでいて透きとおるような緑を含んだ、翠の瞳。自分とはあまりに 違いすぎる、純度の高い結晶のような色に、タキはしばし沈黙し、見惚れていた。
 そうしていると、ふいに男のほうが屈みこみ、伸びきったタキの前髪を静かにどける。
「・・・・禁忌の仔か。予見の力とは、珍しいな」
 タキは、信じられないというくらいに驚いた。禁忌と知って、顔色一つ変えなかった者など初めてだ。・・・いや。 その言い方は正しくないかもしれない。目をみてなんとなく分かった。彼にはそもそも、「顔色」というもの自体ないのではと 思えるほど、その表情は常に冷え切って単調だった。
「親は」
 短く切れた言葉が、質問だったのだと理解するまでに弱冠時間を要し、
「・・・・・・・いない・・」
 『死んだ』とは言わなかったが、男はどうやら悟ったらしい。
 ややあって、彼は簡素なコートの中から少量の保存食を取り出し、タキの前に放り投げた。夢ではないか、と思えるくらい、彼女の中に熱いものが込み上げてくる。
 が、その次に男の言ったことが、タキの思考を凍らせた。
「選べ。これを食って生き、教会の牢で生き恥をさらすか。それとも今ここで空しくのたれ死ぬか」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 もう一度、ゆっくり、頭の中で反芻してみた。
 そして、やはり辿り着くものが変わらないと実感する。どっちにせよ、・・・最悪な選択に変わりない。
 返事を待たぬまま、彼はすっと立ち上がり、
「弱者の思想はよく分からん。他人より突出した力を何故利用しない」
 他と『違う』ということで、今までどれほどの扱いを受けてきたと思っているのか。タキの中で、わずかな感情が色を刻み始めた。 たぶん、体力が残っていたら怒鳴りつけるくらいはしたかもしれない。
 激しい瞳で睨みつけてくる少女を一瞥し、ラーグは再び通りのほうに目をやる。
「己の運命を呪って死ぬなら勝手にしろ。ただし、もう少し人目につかないところでやれ。邪魔な上に目障りだ」





+++++++





「最悪だ」
「最悪ね」
 話を聞いたミリアとティティの開口一番は、見事にシンクロした。
 「そーだろそーだろ」と何度も頷くタキに、あれ?と首を傾げたのはティティのほう。
「でもさでもさ、じゃナンで今アンタが生きてここにいんの??」
「ん?あぁ、あの野郎のツラ見て死ぬなんざぜっったいにご免だったからね。だからとにかく目の前の肉食って・・・・」
「食って?」
「教会が来る前にトンズラこいたに決まってるさね!」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
 ミリアたちは、もはや何も言わなかった。


 しかし、ラーグと旅をするようになってしばらく経つし、それなりに彼の勝手さや周囲への無頓着さや冷徹傲慢っぷりは 否と言うほど知っているつもりだったが、よもやそんな昔からこの性格だったとは。
 そんな―――――――

「さぁ、着いたよ。ここがイリーダの最深部――・・・・って。?」
 平坦な岩の上に足をつけ、タキが振り返ったとき。
 ミリアは残り数段を残したまま硬直していて。
「??どうしたってんだい。よく止まる子だねぇ」
「タキ・・・・・」
「ん?」
 まるで時間が止まったかのように、カチリと固まった表情のまま虚空を眺める少女に、タキは気のない相槌を打ち。
「北の大陸の戦争が終わったのって、・・・いつでした?」
「は?終戦?えー・・・・っと・・・・だいたい、20年くらい前じゃなかったかい?」
「じゃあ、あなたが北の大陸で会ったラーグって――」
「あぁ。もちろん今のままサ。ったく、女としちゃあ羨ましいけど、ある意味怖いね~。不死の聖痕・・・だっけ? 寿命まで止めちまうなんてさ」
「―――――――!!!」

 ざわりっ、と。
 そのとき確実に、ミリアの中で何かが総毛だった。何か、とんでもない見落としに気づいた子供のように。 驚愕と不安感が、一気に頭を覆い尽くす。
 あまりに張り詰められた空気に、タキのほうも「・・・あれ?」と冷や汗を流し。
「もしかして・・・・・・。・・・知らなかっ・・・・・た?」
 声を聞いたのが合図だったのか、ミリアは反射的に階段を駆け上がって―――
 行こうとしたとき、突然なにかに正面からぶつかる。
「っふぇ?わわ・・・っ」
 そのまま後ろ向きに倒れかけたところ、手首を掴まれてなんとか難を逃れた。
「・・・・・・何をしている」
 聞きなれた声に、ミリアは飛び跳ねるように顔を上げた。
「ラーグ!?なんでここに・・・」
「先に訊ねたのはこっちだ。そもそも許可なくここに入ること自体、違法行為だぞ」
 ぴしゃりと言い放たれ、ミリアは一瞬うぅ・・・と唸るも、すぐに観念した。
「タキのお手伝いをちょっと・・・・って、違う!ラーグ、不死の聖痕が寿命まで止めちゃうって本当なんですかッ!?」
 自分の腕を掴むラーグの手を空いた手で握りしめ、食い入るように問いただす少女に少し眉を寄せたあと。
 ラーグは無言のまま、階下のタキを睨みつける。
 同じ方向に顔を逸らしたタキの面は、揺れる灯りの中、1割の申し訳なさと9割の自分の命の心配で満ち満ちた様子で。
「タキ」
「・・・・・・・・・なにさ」
 茫々と揺れる炎の息吹が幸いしたのだろうか。ほんの一瞬、闇の中に垣間見えた違和感に、ラーグは抑揚のない声で呟いていた。
「来るぞ」


 刹那。
 闇を切り裂いた漆黒の刃に、その場の全員が反応していた。
 ミリアが《セルフィート》を顕現させるも、応戦するよりラーグが展開した聖魔導の盾が彼女たちを覆うほうが速く。
 タキのほうは、もうほとんど超反応に近い動作で鋭く身を屈めつつ。
 広いのか狭いのかさえ分からない地下の空洞を、無数の黒いカマイタチが走り抜ける。
 一瞬の攻撃を避けた沈黙のあと、タキは信じがたい脚力でその『闇』から距離をとった。
「って、くらぁラーグ!あんたどーせならあたしも助けるとかしろっての!」
「禁忌の仔は体の丈夫さだけが取柄だ。問題ない」
「問題あんのはあんたのそーゆー思考回路だろッ」
「いったい・・・・・?」
 罵声の中、意識を集中させたミリアが感じたのは、・・・・限りなく純粋な『魔』の気配。
 光の届かない闇の中から現れたのは、やはり闇――――の色と同じくした、漆黒の肌。細められた赤い瞳には妖艶な美しさ すら感じられる。女性と思しき外見を持った、紛れもない魔族。
 そのとき、ミリアには僅かな引っかかりがあった。
 何か―――いや、誰かに似ている―――――?
 その返答は、意外にもすぐ側から返ってくることとなる。照らされた容貌を食い入るように見つめながら、タキは、震える 唇を薄く動かした。


「・・・・・・・・・・・母さん・・・?」

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