03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -
プロフィール

キサ

Author:キサ
ファンタジーとバトルとラヴをこよなく愛し、熱しやすく冷めやすい社会人。

※当ブログの掲載物の著作権は、すべてキサにございます。
無断転載などはおやめくださいませ。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

スポンサーサイト

--.--.-- --:--|スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【第4章】魔の血族 -the demon blood- 6

2016.05.16 22:25|クロスマテリア
「しっかしまた・・・随分と大層な眺めだねこりゃ」
 皮肉を交えたタキの声が、陰鬱な室内を撫でていく。
 小さな窓から臨める遺跡群。その中で一際目立つのは、地中から突き出るように高い蒼穹を目指す、一本の柱だった。 余計な凹凸のない滑らかな表面の周囲には、幾重にも巨大な呪紋(じゅもん)の輪(リング)が重なっており。くるくる、くるくると、絶え間なく 内側から溢れ出る聖気の流れを、光の渦が循環させている。
 ついさっきまで固く封印されていたはずの古の砦の、あらゆる意味で変わり果てた姿に。
『聖地を解放した』
 魔族が残したその言葉を信じることに、なんの疑惑も、湧きはしなかった。



「・・・・で?どこまで話してたっけ?」
 《使徒》の一人、ライラが立ち去ったあと。
 宿に戻ったラーグたちは、状況を整理すべく、各々で目を合わせているわけで。その矢面にタキが悠々と腰を下ろしているのにも、 ちゃんとした理由があった。
「数年前、あの砦が発掘されたところだ」
「ああ、そうそう」
 瞑目するラーグへ適当に手を振りつつ、タキは垂らした横髪を指で弄ぶ。
「当時からぶっちぎりで規模のでかい遺物だったからねぇ。おエライ連中にとっちゃ、まさに宝箱掘り出したようなモンだった ろうさ。けど不思議だったのが、どれだけ神官や司祭を使っても、何度試みても、全く封印が解けなかったコト。・・・ま、一部の 学者たちからすりゃ、それがまた魅力だったみたいだけど?結局そのまま、何年間も放置されてたワケさね」
「??封印方法は他の遺物と変わらなかったんでしょう?どうして・・・・」
 お茶を注いだカップを握りながら、ミリアの首が小さく傾ぐ。
 古の産物は、果てしない時間の最中、外物と完全に遮断するよう誓約を刻んで封印されている。人為的なケースもあれば、 時の流れとともに自然とそれらを覆い隠す、ヴェールの役割を果たしたりもするのだが・・・・・
「・・・・魔の誓約か」
 沈黙を破ったラーグの言葉に、タキは無作法に足を組み直すと、小さく笑って頷いた。
「そーゆーコト。いくら刻まれた誓約が同じ形でも、根源の力が聖でなく魔によるもんなら、いくら聖魔導で緩和させようとしたって 同じことサ。まぁあたしも、《使徒》が一枚咬んでたってのには、さすがに驚いたけどねぇ」
「そこまで分かってて、なんで黙ってたワケよ??」
 自身の身の丈ほどある果物を抱えながら、ティティが不思議そうに訊ねてくる。
 タキは苦笑した。・・・思い出したくないものを思い出したときの、静かな笑みだった。
「・・・禁忌の仔ってのは、できりゃぁバレないほうが、それなりに人生楽しく過ごせるんだよ。教会の人間すら気づかないほどの微弱な魔気を感じ取れる、なんてのは特にね。――――あんただって。そう、思うだろ?」
 流れるように動かされた視線を目で追って―――
 赤い瞳に、真っ直ぐ映された少年は、意外と驚かないまま、返事をするように軽く肩を落とした。
「鋭いとは思ってたけど・・・・もしかして、最初からバレてたり?」
「いくらなんでも、聖気も魔気もからっぽなんてヤツは普通いないからねぇ。何かを得ると同時に、必ず同等、 もしくはそれ以上の何かを失う。それが禁忌の仔の宿命サ。あんただって・・・・・」
 そう言って、タキの赤い眼はゆっくりと、アレンの緑の視線と重なり。
 しばしの沈黙のあと、どこか面倒そうに目を逸らしたのは、タキのほうだった。
「・・・・ま。あえてその中にナニがあるのかは、聞かないどくよ」
「そうしてもらえっと、助かるかな」
 アレンの顔は、屈託なく掴みどころのないいつもの笑顔に戻っていた。

「そりゃそーと、話を戻しましょうや。今の問題は・・・なんで魔族のトップが、聖地の解放なんざして周ってるかってコトでしょー」
 半分強制的に話を切って、アレンは飄々とした態度のまま組んだ腕を後ろへやる。
 聖地とはすなわち、聖気の湧き出る泉のようなもの。
 それらを全て解放すれば、当然世界は多大な聖気で満ち溢れることになる。魔族が進んでこれを行なうことは極めて奇異だ。 そもそもこれらの封印は、古に魔族自身が神を封じるために施したものとまで言われているのに・・・・・
 まったくもって、訳が分からない。《使徒》は何を考えているのだろう?
 黙々とした思考がミリアたちの中を駆け巡り。
 重ったるい空気に嫌気がさしたのか、それまでずっとだんまりを決め込んでいた一人が煩わしそうに頭を掻き毟った。
「っあ゛―――くそ!やってらんねぇな。いつまでもくだらねぇことでダラダラ悩みやがって。言っただろうが。 弱いモンに興味はねぇ、より強いモンに従う。それが魔族だってな」
「ジン」
 ミリアが名を呼ぶと、自称魔人はフン!と腕を組んだまま宙を漂い。
 両手の鎖をジャラリと鳴らせて、不機嫌な眉にさらに皺を寄せる。
「だいたい、使命とあっちゃ何も知らなくても黙って従事する。やおら知恵持って忠誠心の厚い《使徒》なら、なおさらだ。 何かにつけ理由つけたがるテメェら人間とは違うんだよ。しかしまぁ、そっちにとっちゃいいコトなんじゃねぇか?目的さえ 果たしゃ殺さず退くような連中だし。今は3人しかいねぇハズだしな」
「3人?・・・っつぅことは、前会った2人と、今回のライラって奴と、これで全員か」
「もうひとりは??」
「さーてね」
 適当に答えられると、ミリアは一度ぷぅっと膨れ、次いで手を口に添えた。
 ・・・なんにせよ、向こうは3人で、個々が強大な力を有し、そしてなにより―――。命に対して、恐ろしく冷徹で残酷な 考え方を持っている、と言うことだ・・・・・・・・。


「・・・・?・・・ナンだよ」
 腑に落ちないような視線を感じ、ジンはわずかに引くと、発信源の少女に訝しげな目をやり。
 ハッとなったミリアは、慌てて両手をわたわた振った。
「あ!いやえっと・・・・随分詳しいんだなぁ、と思って。魔族って、結構アットホームなんだね」
 苦笑いを浮かべるミリアの指摘に、ジンの赤い瞳に一瞬焦燥の色が浮かぶや。
 パタンと古書の閉じられる音が、上手くそれを阻めて。見ると、相変わらず無表情のまま、ラーグが気のない溜息を零しており。
「・・・あまりそいつに近づくな。『見初められた者』の称号を剥ぎ取られるぞ」
「・・・っ、テメッ!いつまでそのネタ引っ張り回してんだコラーーーーッ!カン違いすんなよッ?!オレはただ――」
「あーハイハイ☆」
 中指立てて喚きかけたジンを阻んだのは、いつのまにか、ガッシリとその肩に腕をかけたアレンのにこやかな笑顔で。 ・・・・傍から見ると肩にかけているのか首まで回っているのか、判断の難しいところであったけれど・・・。
「まぁまぁ神父さん。誤解だったんだからもうその辺にしといてやりましょーや。あんただって、もう反省したもんな~」
「オレが何に反省せにゃ・・・!」
「な。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・」
「・・・・。アンタ、マジで何したのよ?」
 全身にびっしりと冷や汗を浮かべて固まるジンを見て、頬を引きつらせながら訊ねるティティに。
 アレンはかけた腕をもう片方の手でがっちりと挟みこんだ状態のまま、明るく微笑んだ。
「だーから。穏やかに話し合ったんだって。ちょっぴり《真理眼》とか使ったけど」

 ・・・これを実力行使と言わず、なんと言おうか?
 なんだかあえて聞かないほうがいい気がして、妖精はそのままミリアを振り返ると。  ・・・今更ながら、ラーグに言われた言葉の意味を考えていた少女は、ポンと手を叩いて頷きつつ、
「――ああ!大丈夫ですよっ。教会の称号は、賢老院の方にしか外せませんからっ」
「「「「もういい」」」」
 ラーグ以外の全員にそう言い切られ、ミリアはただきょとんと目を丸くするしかなかった。


「《使徒》が何を考えているにしても」
 深い息を吐いたあと、うっそりと呟く金の髪に。
 ミリアたちが視線を注ぐと、相手は本を書棚にしまいながら続ける。
「《レガイア》を奪ったのが奴らなら、奪い返す。邪魔をするなら消す。それだけだ」
「消す・・・ねぇ。随分簡単に言ってくれるけど、相手は《使徒》だよ?魔族棲息域じゃあ大した聖気も扱えないだろうし・・・・魔獣 も喚べない今のあんたじゃ、正直難しいんじゃないかい?」
 場の空気が静まるも、ミリアにはさほどの驚きはなかった。
 ライラの言葉から、彼が魔獣を召喚できなくなっていたことは分かっていたし、ここに戻って真っ先に聞いたのもそのことだ。 ついでに、ラーグがタキの元へと訪れたのが、この原因を調べるためだったということも。
 最初は自分が近くにいるせいでは、とハラハラしたのだが、タキが言うにはそれが直接の原因ではないらしい。ミリアの聖気は 確かに膨大だが、冥界の番人と契約を交わすラーグの魔気をここまで抑えこむほどではないのだとか。
「そういえば・・・ライラが言ってましたね。そもそも魔導がどういうものなのか、考えてみろ・・・・・って」
 空になったカップを机に置いて、ミリアの声が深刻さを増す。
 考えたこともなかった。魔導とは、生まれたときから自身の中にある聖気と、そして魔気を材料として生み出す法則。 学んで努力すれば大概の人間は使えるし、それに別段疑問を感じたこともなかった。しかし、それでは聖気と魔気とは何なのか。 なぜ生き物の体に宿り、生命の役割を果たし、当然のように循環するのか。
「・・・・・誓約か」
 ぼそりと零れた低い声に、全員が振り返り。
 ラーグは手を口に添えながら、あくまで淡々と、思考を紡ぐ。
「聖と魔。いずれの場合も、『力』と括れる全てのもの―――さらに言うなら、それらによって具現するものが皆、誓約に よって生み出されているのなら。俺と魔獣の間を結ぶそれが切り離されつつあると考えれば、得心がいく」
「!?ちょ、・・・ちょっと待ってくださいっ?」
 混乱しだすミリアは、一度頭を抱えて理解しようと頑張ったあと、
「仮にそうだとして・・・・・・・誓約を切り離すなんて、一体誰が・・・・」
「さあな。より強いものに従うのが、魔族なのだろう?」
「・・・!ラーグ、あんたまさか―――」
 意味深な言い回しに驚愕の声を絞ったのは、タキひとりだったけれど。その後ろで椅子に腰掛けるアレンの表情も、何かを確信 したように曇った影を落としていて。
「―――・・・・いつから気づいてたんスか?」
「疑問だけなら、随分昔から感じていた。今回のことで確信に変わったが」
 ひたすら意味が分からないミリアと、黙ったまま腕を組むジンの前で。
 ラーグの出した結論は、ミリアの予想を遥かに上回るものだった。

「魔獣と《使徒》は、全く同一のものだ」


 声が、出なかった。
 驚いたなどというものじゃない。
 その瞬間、確かにミリアから、一切の言葉が消え去った。


「冥界の番人と《使徒》が・・・・・・・・・同じ・・・・?」
 掠れた喉にも、ラーグは大して便乗した風を乗せず、
「《使徒》は、魔族の頂点に座するもの。そして番人は、魔を裁き葬る唯一の魔族だ。理屈に不備な点はない」
「じゃあまさか・・・魔獣が喚べなくなったのも・・・」
 不思議と冷静になった頭で思案するミリアに、次いで答えたのはヒマそうに椅子を揺らすざんばら頭。
「誓約が切れかけてるってんなら、あいつらを縛るモンもだいぶ緩まってるよなぁ?面白いことに、最後に召喚したのはルドル。 連中が初めて俺らの前に現れたのも、ルドル。時期的にもピッタリだ」
 もうほんと。清々しいまでに。
 ここまでピッタリだと、疑う余地すらない。

 軽く唇を噛んで――ミリアは、苦い表情を浮かべた。
「・・・・・でも、それじゃ《使徒》を倒したら――・・・・って、ドコ行くんですか?ラーグ・・・」
 面を上げると、なぜかラーグはいつの間にやらマントを羽織い、無言のまま部屋の入り口へと向かっていて。
 肩越しに視線だけふり返ると、一言。
「そろそろ来る頃だ」
「・・・・・・・・・・はい?」
 さっぱり訳が分からんミリアたちの前で。外に出ようとしたところ、タイミングよく音を奏でたノックとともに、一人の老人が 客室を訪れた。
 なかなか紳士な恰好をしており、口髭の間から覗くパイプが妙に合っている。
 老人はラーグの姿を確認するや、帽子を取り、意気揚々と頭を垂れた。
「おお!これはこれは神父様。この度は大変お世話になりました!」
 初めて見るも甚だしいミリアにとっては、無言になるよか方法がない。すると、奥から顔を覗かせたタキが、「ありゃ?」と 小声で呟く。
「あれ、イリーダの遺跡文献保管部で一番エライじーさんだよ?あいつ一体ナニを・・・」
「いやぁ見ましたぞ!あの砦。何度試みても全く封印が解けんかったというのに。いやはや、やはり聖都の神父様は違いますなぁ」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 チョット待て。


 なんだかとんでもなく嫌な展開を想像して、ミリアは硬直したまま真っ白になり。
 上機嫌のため周りが見えていないおじいさんには、そんな刺すような視線には気づかない。
「調査のみをお願いして、よもや封印まで解放してくださるとは万々歳です。しかも聖地とは、イリーダとしても鼻が高い! 遅くなりましたが、これはほんのお礼でございます。これからの旅に少しでもお役立て頂ければ・・・・・」
 言って差し出された袋を見て、タキが愕然と口を開けた。
「あ、あんなに・・・・!クッ・・・ラーグのやつ、あたしに払った倍はあるじゃないか・・・ッ!」
「・・・そぉ?普段持ってるぶんと袋の大きさ変わんない気がするけど」
「バカだね。銀貨より金貨の音のほうが多いだろっ」
「・・・・・・・・・・・・・イヤ、分かんないし。」
 やや専門的な会話をするタキとティティの横で、ミリアがオロオロとラーグの行動を見つめていると・・・・・

 やがて、無言で老人の話を聞いていたラーグが、落ち着いた口調で静かに呟いた。
「大したことではない。今後もこのイリーダを含む世界の平穏のため、これらは有効利用させてもらおう」


 失神したミリアに代わって、今夜の夕食はアレンが作ることとなった。





+++++++





 夜も深くなると、昼間の賑やかさは一変し、街を抜けるのは静かな闇と、乾いた北の風のみで。
 それでも解放された聖地の塔は、街を見下ろすように虚ろな光の輪を回しつつ。放射を続ける聖気の波は、優しく拭うように、 群青の空を照らしている。

 ミリアは、眠れなかった。
 包み込むように頬を撫でるほどの聖気に慣れなかったのか、それとも昼間の悪夢のせいなのか。そこんとこはよく分からなかったけれど。とにかくシーツにくるまっているだけで、ギンギンに目は覚めていた。すぐ側からは、ティティの健やかな寝息が聞こえる。
 タキは帰ったものの、こう人数が増えると、さすがに一部屋では窮屈になるもので。あくどい方法であれ、かなりの収入もあったので、 今日のところは2部屋に分かれることとなった。「ジンはランプに入れるし、そんなに幅取らないんじゃ?」と言いかけたところ、 なぜかランプが真っ先に隣部屋に放り投げられたのがちょっと疑問だったけれど・・・・・。
 そのとき、窓の外からドアが軋む音がした。
「・・・・・?」
 そろそろ月も天頂をまたぐ。こんな時間に誰が??
 そろりと窓の外を覗いてみると―――月光に照らされ、見知った金の髪が宿から出て行くのが見えて。
(・・・・・ラーグ?)
 確認のためか、ふいに上げられた視線を避けようととっさに窓際に隠れ、再び遠ざかり出した背中を不審な瞳で追う。
 方角からして、どうもあの塔へ向かっているようだ。
 一瞬迷ったのち――――ミリアはそっと、ベッドから抜け出した。





+++++++





 ・・・・確かに、塔へ向かっているという予想は当たっていたけれど・・・

「・・・・・・上?」
 適度に距離を取りながら、前を行くラーグの行き先に。ミリアは意表を突かれつつ、呪紋の巡る上空を見上げた。
 塔へたどり着いたラーグは少し周囲を調べたあと、壁の一部に手を当て。一言何かを呟いたかと思うと、突如、真白い壁面に 幾筋もの呪紋が走り、人一人が通れるくらいの入り口が出現していた。
 その中へ踏み込むと、中は延々と続く螺旋階段がとぐろを巻いており。ただ普通の階段と違ったのが、石や土ではなく、段差ごとに 僅かな隙間を開けて、半透明の呪紋の帯によって出来ていたことで。
「だ・・・大丈夫なのかなコレ・・・・・途中で消えたりしないかな・・・」
 上へと登れば登るほど不安が増し、ミリアは恐る恐る足元で輝く光の循環を確認しながら一歩ずつ踏み出す。すると、いきなり何かに頭をぶつけ――
「ふわ・・・っ!何?―――――・・・あ。」
 見ると正面には、冷ややかな顔で見下ろすラーグが立っていたわけで。
 間抜けな声で硬直するミリアに、短い溜息が降ってきた。
「・・・・・・・何をやっている」
「――えっと、その・・・・・・・・」
「 尾行するならまず気配を消せ。そして余所見をするな。さらに言うなら、独り言を言うな」
「ぅ・・・・・・・・・」
 モゴモゴと言葉を濁らせる少女は、力なく全身で項垂れるばかりで。
 いつから気づいていたのやら・・・・・。がっくりと肩を落とすミリアを一瞥したあと、神父はそのまま、またコツコツと階段を 登り出した。そして。

「何故、ついてくる?」
 引き返すと思っていたのが、懲りずに堂々と後を歩んでくる従者を振り返り、ラーグは陰鬱そうに顔をしかめた。
「用がないなら帰れ。俺は調べることがあって来たに過ぎん」
「なっ。それなら尚更です!あたしはラーグの従者なんですからっ。解放された聖地を調べるのなら、従者の同伴は 許されるはずですよっっ」
 面と向かって言い切ると。
 ややあった後、ラーグは諦めたように再び歩みだし。
「・・・・勝手にしろ。落ちても知らんぞ」
「ご心配なく!そんなヘマは――――わきゃぁぁッ?!」
 威勢のいい返事をするや否や―――。見ると、足を踏み外したミリアは見事に帯のひとつに必死でしがみついていて。

「・・・。俺はお前を尊敬すればいいのか?それとも憐れむべきなのか?」
「・・・・・・・・・・・・・手を貸してください・・・・・」





+++++++





 塔の最上階は外から見たのと同じ、滑らかなドーム型になっていて。
 床や壁、さらには天井までにも無数の輪が広がっていたのに、一瞬ギクリとしたけれど。その循環が常に一定の濃度を保つ 聖気の奔流なのだと分かると、ミリアはどこかホッと息を撫でた。
 淡く輝くそれらへ掠れる程度に手を添え、何かを確かめるように周囲を歩いていくラーグに。
「素手で輪に触れて、大丈夫なんですか?」
 なんとなく思ったことを口にすると、目の前の男はなんでもないような口振りで、さらりと言ってのける。
「急速に体内に流れ込んでくる聖気を制御できなければ、体が砕けるだろうな」
「――なぁッ?!・・・へ、平気なんですかラーグッッ!?」
「問題ない。例え手足の1、2本無くなろうとも、俺は死なん」
 変化のない単調なトーンで答えた背中に、光を吸った紫暗の瞳が繋ぎとめられる。

 ・・・・・それは決して、多大な力を持ったことへの自信などではなくて。
 消えぬ聖痕を背負った者の、行き場のない迷路の中、彷徨い続ける果ての声に聞こえた。

「ラーグ・・・・寿命まで止まってるって、なんで言ってくれなかったんですか?」
「不死の聖痕については話したはずだが」
 背中を向けたままあっさりと放たれた返答に、ミリアは一瞬理解が追いつかず。再稼動した頭が理解するころには、 勝手にすっとんきょうな声が上がっていた。
「・・・・はぁぁ!?何言ってんですか、回復力のことしか聞いてませんよっ!」
「会話の流れで察するぐらいしろ」
「今更んな無理難題つっかけないでくださいっ!!」
 肩でゼーゼー息を荒げたあと、ミリアはどこか張りつめていたものが一気に解けたように、へなりとその場に座り込む。
「まったく・・・・そもそも一体何がどうなって、あなたにそんなものが刻まれてるんですか・・・」
「さあな」
「またいー加減な言い方を・・・・」
「本人すら覚えていないことを、どうやって説明できる」
「だからそういー加減な――――え・・・?」

 はたと気づいて顔を上げるミリア。
 一度手を止めたラーグは、こちらに表情を見せないまま、低く呟いた。


「どれほど昔だったか、もうそれすらおぼろげだが・・・・何も無い荒野で、今の姿のまま、俺は目を覚ました。 ―――それ以前のことは、全く記憶に無い」



「何一つ・・・・・・覚えていないんですか?親も、生まれも――――・・・・どうして、そんな体になったのかも」
 呆然と繰り返すミリア。
 壁の一点で視線を止めると、そのままの姿勢でラーグは答える。
 冴えた光の灯す横顔の、なんと冷たく酷薄なことか。
「唯一覚えていたのは、自分の名だけだ」

 何も無い    真っ白な世界で

 自分の存在すら     虚ろな視界の中で

 それだけが     確かにそこに在った


 ―――まるで、違えることを許さないかのように。


「・・・じゃあ聖痕も、魔獣を喚ぶ力も、そのときから・・・?」
「断言はできん。だが、そこから後でこれらを手にした記憶も無い」
 いつもと変わらぬ抑揚のない口調は――・・・しかし、いつもよりずっと深淵へ堕とされた、まるで人形のような頬から紡がれて。
 これから自分が言うことが、彼をさらに傷つけないか、と不安に駆られながら、ミリアは引き結んだ唇から呟いた。
「ラーグは・・・・これでいいんですか?」
 ミリアが俯くと、今度はラーグの視線が下げられる。
「何が」
「《使徒》を倒してしまったら、ラーグと魔を結ぶその力も絶たれます。ラーグの記憶を知る手がかりが、一つ消えるんですよ? それでも・・・・・いいんですか?」
 おせっかいなこと、この上ない。
 そう自覚しながら、それでもミリアは、胸の思いを吐き出さずにはいられなかった。
 少し間を置いたあと、ラーグはもう一度触れた壁に視線を戻し。・・・目を伏せたあと、音もなくそっとその場から離れた。
「帰るぞ。用は済んだ」
 ちょっと飛びすぎな言葉に、ミリアは埋めていた頭をピョンッと跳ね上げ、「え?」と目を丸くする。
「・・・。結局、何しに来たんです??」
「同伴の権利はあっても、従すべき者の私情を聞き出す権限は、従者にないはずだが?」
「うー・・・」
 恨めしげな瞳で小さく睨むと、ラーグの足は自然とミリアの方・・・つまりは螺旋階段の方へと向かい。
「《レガイア》さえ取り戻せれば、俺にとってあんな力など、何の価値もない」
「・・・?『さえ』って・・・・・そりゃあ審議会の命令は絶対ですけど」
「審議会、か。―――そういえばそんな命令でもあったな」
「え?」
 眼前に見えた、僅かに自嘲したかのような薄い笑みに。
 ミリアが首を傾げかけ、同時にラーグの黒い法衣が隣の風を撫でる。


「あの剣が俺の望みを叶えさえすれば。あとはどうなろうと、知ったことではない」



 ・・・何故だか、分からなかった。
 まるで己の意志で動いているような口振りだとか、《レガイア》が望みを叶えるだとか。分からないこと、訊ねるべきことは山ほどあったのに。
 そんな疑問よりも、過ぎ去ってゆく背中に感じた不安が、一瞬胸を満たし。

 何故だろう、酷く嫌な予感がしたのだ。
 彼がこのまま―――どこか、遠くへ行ってしまうような、気がして・・・・・・・・


 気がつくと。
 いつの間にかミリアの力ない手が、ラーグの法衣の裾を掴んでいた。
 振り返られた端正な面立ちが、心なし程度、驚きの色を刻んでいる。交わった視線に、ミリアはようやく我に返り――
「・・・・・へ?――あ、あれ・・・?!」
 慌てて手を離すと、輪の光に照らされたそれは、なんの抵抗もなくふわりと落ちた。
 しばし混乱するミリアを細い目で見つめたあと、
「・・・・帰るぞ」
 振り返ると、それ以上は何も言わず、一度もミリアを顧みることもなく―――呪紋の段を下っていく。
 後に続き、その背を見上げながら、ミリアは胸元の十字架を両手で握りしめた。

 ――何故だか分からない。けどあのとき、確かに願ったのだ。


 『いかないで』   と――――――





+++++++





「人って、誰でも心にお星様を持っているんですって」

 塔から出て、もと来た道を歩む中。
 天を仰いで呟く隣の少女の目には、零れんばかりの星空が広がっている。
 歩調を緩めぬまま、ラーグは気のない声で言う。
「・・・それは、死者の聖気が屑となって空へ昇るという、お前たちの空想か?」
「どーしたらそんな夢のない解釈へ結びつくんでしょうね・・・」
 半目を軽く逸らすミリアは、「そうじゃなくて」と、傍らの長身を真っ直ぐに見上げ。
「ほとんど覚えてないんですけど・・・・。昔、母さんが言ってたんです。どんなに真っ暗な夜にでも、必ず一つはその人だけが持つ 光があるって。どんな仄かでもその空を照らして、それを失いさえしなければ、いずれ必ず朝は来るって」
 想い出のページを捲るように繋がれた声は、やがて、強い瞳のそれに変わって。
 霞みがかったような記憶に関わらず、彼女の中では、それが未だに大きく影響を与えている証拠だった。
 乾いた風が、長い髪を優しく梳いている。
 微かに眉を寄せて、ラーグは気のない視線を前へ戻した。
「朝、か。時間の止まった俺には、関係のないことだ」
「動いてますよ、ちゃんと」
 即答するミリアの顔は、視線を落としながら、柔らかく微笑んでいて。
「あたしみたいに、ラーグの周りにいる人全員の時間が動いてるんだから、ラーグだってちゃんと動いて、今、ここであたしと話しながら歩いてます。だからいつかきっと朝だって来ます」

 永遠に終わらないものなど、何一つないのだと。
 呪紋も、命も、そして想いも、いつだって絶え間なく巡る循環の中にあるのだと。

 そう、信じたいから。


「・・・・だから、途中で諦めないでくださいね。自分から終わらせちゃったら・・・・・駄目です」
「長い上に締めくくりが雑だな」
「ずっと黙ってた第一声がソレですかッ?」
 さらりと繋げられた冷めたコメントに、思わずミリアも瞬時にツッこんでしまい。
 慌てて口を押さえたあと、冷ややかに見下ろす神父の蒼い瞳を正面から捉える。
「生憎と賢老院をはじめ、俺は誰の意見にも従うつもりはない。今回はたまたま、連中と利害が一致しただけのことだ」
「・・・・・・失礼極まりないですね・・・。分かってたけど、なんか頭痛まで―――って、ナニこんな時間から煙草吸ってんですかッッ」
「こんな時間から喚くなやかましい」
「・・・・・・・・・ぐぐっ・・・・!!」
 ワナワナと拳を震わせるミリアの一挙一動をわざと煽っているかのように。当の神父は素知らぬ顔で夜空に白煙を流して。 なんだか手の施しようがないくらいに会話の流れがねじ曲げられ、重い肩を落としつつミリアは息を吐く。
 溜息のぶんだけ、歳をとったような気分だった。
「・・・て言うかラーグ、また新しい煙草買ったでしょう。いくらなんでも、お仕事請けるときにまでそう無遠慮なのは、マナー以前に あたしの心臓に悪いです」
「大した聖堂騎士だな」
「関係ないでしょーっ?」
 やはり聞く耳持たないこの男は、げんなりとなるミリアの前を少し歩いたあと。
「――昔、こんな男がいた」
「へっ?」
 ぴょこんと頭を上げると、ラーグが吸い殻の粉を地面に捨てているところで。

「驚異的な煙草好きで、日に吸う数はおよそ50本。特技は寝ながら吸えること。聞くところによると、妻子と煙草1000本なら妻子を選べるのが自慢らしい」
「・・・・ナンデスかそれわ・・・・。つーか、そんなあらゆる方面で突飛しすぎな人と比べられても・・・・」
「突飛か」
 独りごちると、ラーグはほんの少し、口元に笑みを含ませて。
 珍しくミリアに同意するかのように、白い糸をゆっくりと風に乗せ、瞳を閉じた。

「たしかに、馬鹿だな・・・」





+++++++





「おーっす、ミリア」
 翌朝、睡眠不足でボーッとした頭に、快活なアレンの声は普段の10倍の音量で響いた。
 背後からの声にびくっと体のバランスを崩し、せっかく直したシーツがまたも皺くちゃになる。窓際で枕を叩いていたティティ が―――彼女が叩くと、ヘコみ具合がサンドバッグのように見えることは、このさい無視することにした―――こちらを向く。
「あらら。どーしたのよミリア?いつもはスッゴイ寝起きいーのに」
「・・・・・うん、まぁ・・・・・・ちょっと」
「昨夜は寝てねーのか?」
「え゛」
 軽く投げられたアレンの質問に、ミリアは一筋の汗を流す。ラーグをつけていったことは勿論、あの塔の中で聞いたことは、とても 自分の口から勝手に言えるものではない。精一杯の努力で平静を装うと、ミリアは後ろのアレンを振り返り。
「ど、どして??」
「イヤ、昨日は色々あったからさ。おまえそーゆーの、気にするほうじゃん」
「――あ。・・・・うん、実は」
 ホッと胸を撫で下ろし、ミリアはいつもと変わらぬ笑顔を見せる。
 考えてみれば、始めは本当に眠れなかったのだ。完全な嘘とも言い難い。とにかく今は―――黙っているのが一番いい。



「何を持っている?」
 同じように寝ていないのに、なぜか普段と変わらぬ顔色で。
 平然としたまま部屋をあとにするラーグの声に、ミリアはきょとんとなって振り返った。
「何って・・・・ランp」
「捨てろ」
 言い切る前にスッパリ断言され、ミリアはしばし開いた口が塞がらず。
 代わりに反撃したのは、耐え切れんとばかりにランプから飛び出したジンのほうだった。
「って・ん・めぇーーー!二つ返事でそれたぁいー度胸じゃねーかッ!」
「もしくは燃やせ」
「悪化さすなーーー!!」
「あ・・・あのラーグ、このランプはあたしのお金で買ったわけですから・・・」
「テメェも何気にモノ扱いしてんじゃねェッ!」
 一通り叫ぶと、いつの間にやらアレンやティティまで不思議そうに覗き込んでおり。
 どこか地鳴りが聞こえそうなぐらい、赤と蒼の目が殺気だった沈黙を貫いたあと。
 ジンは鎖を奏でて腕を組み、吐き捨てるように息をついた。
「―ケッ。オレだってテメェと旅するなんざまっぴら御免だぜ。けど言ったろ。オレにゃ幾つもの誓約が刻まれてんだ。 主人となった奴からは、願いを全部叶えるまでどう足掻いたって離れらんねんだよ」
 憮然と口を尖らせるジンの言葉に、ラーグはあまり表情を変えず、黙している。
 しばし考えていたミリアは、言われた意味を少し整理して、
「・・・・じゃあ、もしジンをここに置いてっても・・・」
「一定以上の距離が開けば、勝手にオマエんトコに飛ぶ」
 苛立った表情をあからさまに浮き立たせ、宙空に座る魔族は本気で不本意そうで。
 外からアレンの適当そうな声が聞こえたのは、そのときだった。
「まー、ミリア次第ってことッスねー。いんじゃないですか?これから魔族棲息域行って《レガイア》取り戻しゃ、旅も終わりだし」
「・・・・・大変なコトをえらくケロッと言うのねアンタ・・・・」
「魔族棲息域?・・・フーン、――まぁオレとしちゃ、さっさと解放してもらえりゃなんでもいーけどよ」
「安心しろ。全てが終わった暁には聖地の輪の上にでも寄贈してやる」
「死ぬっつーの!そっちの解放じゃねぇッッ!」

 再びがなる魔族を無視して、さっさと宿を後にしようとするラーグに。
「あ。そーそー神父さん」
 屋外への扉を開けようとすると、あっけらかんとした制止とともに、アレンが横を通り過ぎ―――。すれ違い際、小さな声で囁かれた。
「とりあえず、あの塔の中までは入っちゃいませんから。別に必要ないと思ったし、聖気が強すぎて非魔導体質の俺にゃ ちょっとキツかったんで」
 にんまりと笑う少年に、しばし無言のまま目を細め。
「・・・・・・どこから出た」
「ドアノブにかかってた拒絶魔法ッスか?あいにく、5階から飛び降りても全然平気なんスよ、俺☆」
 悪戯っ子のようにカラカラと笑むアレン。
 禁忌の仔は体が丈夫と聞くが、こいつの場合は・・・・異常だ。溜息を吐くと、ラーグは扉を開けて外に出る。
 そして。
「言い忘れていたが、窓枠に触れたのなら、今日一日は素手で貴金属に触れないほうがいいぞ」
「――へ?」
 抜けた返事を返すのと、アレンがノブに手を伸ばすのは、まったく同時のことで。突如指先とノブの間で走った青白い光と 痛みに、とっさに手を引っ込めた。前を歩く神父の背中は、相変わらず淡々と素知らぬ風。
「・・・・・おっかね~~・・・」
 冷や汗混じりに苦笑すると、アレンは触れてないもう片方の手で、扉を開けた。



「―――うわッ。んだよコレ、寒いと思ったら雪降ってんじゃん!」
 外に出るや、視界に飛び込んだ白銀の粉に。
 アレンが身震いして声を上げると、ミリアはハッとなって、小さく息を呑んだ。白い息が、灰色の空へ昇る。

 ――そういえば、こちらではもう、そんな季節だったか―――

「あの・・・ラーグ」
 まだ積もるには早い、濡れた大地を歩く神父を呼び止めると、ミリアはどこか、言いにくそうに視線を下げる。
「すみません。魔族棲息域に行く前に・・・・少し寄りたいところがあるんです。一日だけでいいですから・・・」
 ティティやアレンが驚く空気が、肌で感じられた。
 普段のミリアなら、私情で教会からの任務外のことをしたがるなど、絶対にないはずだからだ。
 ・・・しかし今日は―――いや、明日は特別だった。毎年この日だけは、無理を言って休日を貰い、訪れる場所がある。
「ちょ・・・っ。ちょっとミリア何言ってんの、んなのこの自己中神父が許すわけ―――・・・」
「別に構わんが」
「ホラやっぱり・・・・――えぇッ?!」
 飛び上がらんばかりの声を上げて、妖精は力いっぱい驚愕する。
 ミリアも驚いたが、それよりも安堵のほうが勝っていた。
「あ、ありがとうございますっ」
「場所は。近いんだろうな」
「は・・・っはい。えと・・・ここから北東にある、ノワールの街です」
 背中で具体的な行き先を聞いて――――。ラーグの顔に、僅かな陰りが生じる。


 大聖堂教会北方支部ノワール。

 ミリアの両親が――――亡くなった場所だ。

コメント

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。